そこに至る夢

世界が終わる日の夕暮れは、きっとこんな景色だろう。

燃えるようなオレンジがビルを照らしていた、綺麗な空だった。

終わりが見えない長い道を、僕達はひたすらに歩き続けていた、始まりだった場所はもう思い出せないほど小さくて、こんな遠くまで来たものかと感心してしまうほど。

「あの日々は……楽しかったね……振り返ればみんながいて、笑い声がそこら中に響いて、どこにいるのも、何をしようとも自由な、暖かい場所だった。」

その日々はとても大切だった、思い出に価値をつけることが許されるなら、どんな高価なものよりも変え難い、大切な日々だった。

「自分には何もないと思っていたんだ、卑屈とか謙遜とかそういうのじゃなくて、ただの本心として、本当に思っていたけど、そうじゃなかった、ここにいればなんでもできる気がしたし、本当になんでもできた。」

かつての思い出をなぞるように、僕達は遠くの空に浮かぶ夕日を眺めた。

「けど、だめだったんだ、ここじゃ私は幸せになれない、私はここにはいられない。」

彼女は寂しそうな瞳でそう呟いた。

人の感情は移り変わる、細胞が分裂し約7年の歳月で内側からすり替わるように、感情もまた、ゆっくりと移ろってゆく。

「今の僕が生まれたのは紛れもなくこの場所のおかげだし、そこには一縷の嘘もない、この場所がなければ僕は僕を形作れてはいないだろうし、あなたのことを知る事も無かった。」

「あなたに会えた幸福を、この場所に居られた喜びを、そして、あなたとの最後を選ベた事も、この7年の移ろいの中で出せた答えなんだ。」

昔から、臆病な人間だった、新しいもの嫌って、いつまでもそこに居続けようとして。

「あなたが望むなら、もうこの場所から離れる事も迷わない。」

誰も僕たちを見つけられなくても、描いた夢の先であなたが笑えるなら。

「僕も一緒に行くよ、ここから離れる決意ができたんだ。」

遠い昔、まだここにいたいと駄々をこねて、去る背中を見送った。

あの人は今は元気だろうか、随分と時間がかかったけど、僕も新しい場所も歩けるようになったんだ。

夕暮れは姿を消して、ビルの明かりと控えめな星が僕達を照らしていた。

もう心に靄は居なかった、随分と心配をかけたみたいだね、大丈夫、話したいことはもう全部話したよ。


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