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佐竹くんとハンバーグ定食



佐竹くんは大学の時のクラスメートで、筋金入りのクリスチャンだった。

だから、お昼ご飯を食べる時も、少し眼をつぶって、ちゃんとお祈りしてから食べていた。

佐竹くんは斉藤くんしか友達がいなかったし、斉藤くんも佐竹くんしか友達がいなかった。

私は女の子の友達達とランチを食べるのも楽しかったが、佐竹くんと斎藤くんと3人でランチをするのも楽しかった。

佐竹くんは変わった子だった。

返答が返ってくるのが異様に遅いのである。

私が佐竹くんに聞く。

「佐竹くんは、次の社会学の授業は出るの?」

佐竹くんは、何か考え込みながら、自分で作ってきたお弁当の野菜炒めを噛みしめる。

うーん。

返事がない。

「聞こえていないのか?」

私はいつもそう思う。

私は、間が持てないので、 斉藤くんと話し始める。

斉藤くんのサークルの話とか、コンビニでのバイトの話がひと通り終わる。

「出る。」

やっと佐竹くんから返事がきた。

やれやれ。

社会学の授業に出るか、出ないかだけの質問なんだけど。

こんな佐竹くんだが、非常に頭が良かった。

彼が非常に頭がいいのを根本的に知ってたのは、大学の先生たちと私だけじゃないかと思われる。

佐竹くんが勉強で苦労しているのを見たことないし、趣味で独学でラテン語とヘブライ語をやっていた。

キリスト教の聖書の勉強に根本的に必要らしかった。

「俺、ラテン語とヘブライ語やってるんだよね。」と言われた時には、びっくり仰天した。

こんな佐竹くんだが、斉藤くんもよく言っていた。

「俺、佐竹と2人だと間が持てない。綾子、一緒にご飯食べてくれない?」

「いいよ。」

と、私も返事をしていた。

問題は、斉藤くんが学校を休んで、佐竹くん1人になる時である。

「ねえねえ、綾子さん。」

佐竹くんが近づいてくる。

「なんですか?」

一応聞く。

「今日、斉藤くんがお休みなんだけど。」

佐竹くんが言う。

「そうだね、この頃学校来ないね。」

私も答えた。

「というわけで、一緒にご飯食べていい?」

佐竹くんが言う。

「いいけど、他の女の子達も一緒だよ。」

私も答えた。

私も、佐竹くんと2人でご飯は食べたくない。彼女でもあるまいし。

第一間がもたない。

他の女の子達に、佐竹くんも一緒に食べることを伝える。

みんな性格がいいから、「いいよ!」って言ってくれる。

新しくできたカフェテリアで、私は念願のハンバーグ定食を食べ始めた。

このハンバーグ定食は値段が高いけど、美味しいから、好きだった。

隣に座っていた佐竹くんが言う。

「いいなあ、美味しそうだな。そのハンバーグ。」

うーん。食べづらい。

彼のお弁当のおかずは、また野菜炒めだ。

ちくしょう。泣く泣く、私は佐竹くんに聞く。

「ハンバーグ少し食べる?」

「うん!」

佐竹くんは嬉しそうに答えた。

くそう、このお坊ちゃまめ!

私は仕方ないから、自分のハンバーグを分けてあげた。

「ありがとう!」と言って、食べはじめる佐竹くん。

人を幸せにするには、自分が不幸になるんだ。

私は、自分の減ったハンバーグを見つめてそう思った。

クリスチャンの彼を大学の間助けたんだから、彼の信じている神様も、もうそろそろ私を助けてくれてもいいはずだ。

私は、最近神様と取り引きを始めている。


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