冷蔵庫のドアが閉められない
冷蔵庫は鳴る。
インターホンでもなく、電子レンジでもない。キッチンタイマーもセットしていない。できることなら何も鳴らしたくはない。
ピー、ピー
それなのに冷蔵庫が鳴る。
僕は冷蔵庫のドアが閉められない。
たとえば、冷蔵庫から麦茶を取り出して飲むとする。当然飲み終わったら麦茶を冷蔵庫にしまう。こんなごく当たり前の一連の動作の後、4回に3回は冷蔵庫のドアが閉まっていない。
自室に戻り、んーと一つ伸びをしてから椅子に座ったあたりで「ピー、ピー」と警告音が鳴っていることに気づく。毎日これの繰り返し。この世で最も不要かつ不毛なルーティンがここにある。
自粛生活のおかげか、これまで以上のコンスタントさで冷蔵庫は鳴っている。
冷蔵庫のドアを閉めるのに複雑な手順はいらない。すっ、ぱたん、で済む。
わざわざ印鑑やマイナンバーカードは必要ないし、パスワード入力を求められるわけでもない。こんなに単純で簡単なことなのに全然できない。
5回連続で閉め忘れたら「高校時代の『前略プロフィール』を知り合い全員に晒される」くらいのリスクを設定してくれれば頑張れる気はする。こちらを甘やかしている冷蔵庫側にも落ち度があると思うのだけど、そこのところはどう考えているのだろう。
正直なところ「閉め忘れている」感覚もない。「冷蔵庫のドアを閉める」行為に意識を向けることができないので、気づいた時にはもう“閉まっていない”わけだ。なんだこれ。哲学か?
料理をしている時は特にひどい。冷蔵庫を開けて食材を取り出すとその都度ドアが開きっぱなしになる。
コンロや作業台に向かっていると右斜め後方に冷蔵庫がある配置なので、調理中に右足の後ろ回し蹴りで冷蔵庫のドアを閉めるスキルは身に付けた。
玄関の鍵を締めることはできるのに、なぜ冷蔵庫のドアを閉めることができないのだろうか。まあ玄関の鍵も1週間に1回くらいは締め忘れてるし、なんなら半ドアの状態で夜を明かすこともあるのだけど、それは数ヶ月に1回くらいなので許容範囲か。
冷蔵庫のドアが閉められない。これはいったいどういうメカニズムなのだろう。我ながら少しも意味がわからない。
ドアの開閉が必要な冷蔵庫を使ったことがないまま大人になり、最近ようやくドア付きの冷蔵庫に買い替えたとかならまだわかる。でも、そんなことはない。いつの時代も冷蔵庫にドアはある。
実家の冷蔵庫にも確かにドアはあった。ここまで何の疑いもなく「冷蔵庫のドア」と書いてきたけど、冷蔵庫のあれをドアと呼ぶのが正しいのかどうかも不安になってきた。
子どもの頃から冷蔵庫のドアを開閉してきた。ドアの開閉には慣れているはずなのだ。牛乳をよく飲む子どもだったからドアの開閉の回数は全国平均よりも多くこなしてきた自信すらある。
経験値は積んでいるのにレベルが上がってない。冷蔵庫のドア閉めに関する学習能力が一向に培われていかない。
要するに、これは単なる不注意による結果の積み重ねなどではなく、そもそもドアを閉める能力が備わっていないのだ。incapableだ。こちらに非はない。
冷蔵庫も一旦逆の立場になって考えてほしい。もし、いきなり「冷やしたり凍らせたりするのはもうわかったから、食器を洗ってほしい」なんて言われたら「無理です」と言うはずだ。「開けたらちゃんと閉めて」とピー、ピー言うが、それと同じくらい無茶な話なんだ。そのくらいわかってくれ。
これだけ閉め忘れるなら、もういっそのこと開け忘れたい。開けなければ閉める必要がない。つまり、閉め忘れたくても忘れようがない。ああ、なるほど。こういうのをハック思考って言うのか。
7、8年くらい前から財布を使うのをやめたけど、その理由は「持っていると失くす」から。持っていなければ失くせない。いいぞ。IQ高そうだ。冷蔵庫のドアもそれと同じロジックでいきたい。
今や扇風機に羽根がない時代。そろそろドアのない冷蔵庫が登場したっていいと思う。ワイヤレスはもう浸透してるし、テレワークとかの前にドアレスを推進してほしい。
ついでに言うと電気も消せない。実際、冷蔵庫のドア閉め忘れよりもひどいかもしれない。警告音がない分、気づかずに放置している時間はこっちのほうが長い。5回点けたら4回は消し忘れている。
消し忘れが一番多いのはキッチンの電気。冷蔵庫のドアを開け放ったまま電気も点けっぱなしなんてザラにある。キッチンとは相性が悪いのかもしれない。
冷蔵庫のドアを閉めにいき、その時に点けた電気を消し忘れるパターンも多い。冷蔵庫を開けた時点で悲しみの連鎖が始まっている。
ならばいっそのこと電気も点け忘れたいわけだけど、昼間でも無意識に点けている。無意識よ、仕事をしろ。無意識で開けるなら無意識で閉めろ。無意識で点けるなら無意識で消せ。開と閉、点と消はどう考えてもセットだ。連動をしろ
結局、この話の登場人物で一番悪いのは無意識。無意識、仕事しろ。
この問題、自分では改善できる気がしないのだけど、誰か #いま私にできること を教えてくれませんか。
もっと書くための励みになります