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覚え書き:ちゃーぼー

いつもより1時間早くオフィスを出た。
とても体がだるくて、これ以上は無理だと思ったから。

家に着くとすぐにちゃーぼーの名前を呼びながら、寝室の明かりを点けた。
目に入ったのは、フローリングの床に横たわった、ちゃーぼー。
私の声を聞いて、ちゃーぼーが振り絞るような声を出しながら、前脚を動かした、と思ったらみるみるうちに床が濡れた。
そして、動かなくなった。午後6時50分だった。
ごつごつと骨が浮き出た体を抱き上げて、「ちゃーちゃ」と声を上げて泣いた。何度も何度も名前を呼びながら、羽毛のように軽くなった体を胸に搔き抱いた。
ベッドの上にそっと横たえると、”まだ死んでないよ”とでも言うように、息を吐いた。

ちゃーぼーの、骨と皮だけになった体や顔を撫でながら、最期の時を待つ。
「ありがとう」と「ごめんね」を繰り返しながら。

何度か荒い息をして、ちゃーぼーは動かなくなった。
さっきみたいにまた、息をしてくれるかもしれないと期待を込めて、
ちゃーぼーを抱きしめてみても、その四肢は、だらんと頼りなく私の腕からこぼれてしまう。午後7時4分、ちゃーぼーは肉体を離れて、魂だけになった。

この6月に18歳になるはずだった。
おっとりした性格なのに、ネズミやゴキブリを捕るのがとても上手だった。
甘えん坊で控えめで、食いしん坊。豚肉が大好きだった、ちゃーぼー。
叱ったり、待たせたりすることの方が多かったことが悔やまれる。
どんなに叱られても、どんなに待たされても、一緒にいられる一瞬一瞬を
とても大事にしてくれた、ちゃーぼー。
この18年の間、私の、泣いたり笑ったりの毎日にそっと寄り添ってくれて
どうもありがとう。

ハワイ時間、2022年1月27日午後7時4分。
ちゃーぼー、または、ちゃちゃ、こと、おちび、魂へと戻る。

そして今日、1月28日。予約していた獣医にキャンセルの連絡を入れると共に、火葬の依頼をした。
お昼前に硬くなった体をバスタオルで包み、大好きだったおやつを入れて
獣医に届けた。獣医に向かう車の中でタオル越しに頭を撫でながら言った

「もしよかったら違う体を借りて、またママに会いに来て」



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