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5 化粧に癒しと楽しみを見出す男性(2006年から2010年)

 2007年の『メンズノンノ』でも、広告や美容特集の減少傾向は続いており、全く掲載されていない号が年間半分ほどとなっている。そのような状況の中でも特集されている記事の内容は、「眉」と「スキンケア」だ。2007年5月号316ページ「 自分に似合う『フェイバリット眉作り』を徹底レクチャー! 魁!「男眉」塾!!」では、美容記事が少ないこの年代においても、眉の整え方だけで4ページ使用していることから、読者にとって興味があるトピックであり、男性の化粧にとって重要なパーツであったことは間違いない。
 スキンケアに関し特徴的なのは、掲載されている商品のラインナップである。これまでの『メンズノンノ』の美容特集では、主にビオレによるメンズビオレや資生堂によるUNOシリーズといった男性向け化粧品、海外ブランドではクリニークが掲載されていた。しかし、2007年ごろからは国内ブランドでは良品計画による無印良品、ロート製薬による極潤シリーズが掲載されるようになった他、外国ブランドではAesop、ジョンマスターオーガニックなど多様なブランドが掲載されるようになる。つまり、商品名に「男性用」ということが明記されていないものが掲載されるようになったのだ。従来の男性向け商品には黒やネイビーのパッケージが採用されたものが多かったのに比べ、これらは白やブラウンを基調としている。良品計画は2003年に化粧水を発売(注26)、Aesopは1995年すでに日本に上陸(注27)していたことを考慮すると、単に「そのブランドが発売されたから掲載されるようになった」という理由は考えにくいだろう。
 2000年代後半には「ベスト・リラックス・スタイル」(注28)や「ジェンダレス・トラッドスタイル」(注29)といった、露出や密着度の高いアイテムを使用したメンズファッションが流行した。ファッションの性差が徐々になくなっていったのである。ジェンダレス化の進むファッションスタイルが、男性のコスメ選びにも反映された結果、このように男性向けと明記されていない商品も多く掲載されるようになったのではないだろうか。
 この年代には、前述の2000年台前半で登場した「スキンケアを楽しむ」という視点がさらに強くなっている。2007年8月号196ページ「洗う、引き締める、ニキビケアの三位一体で、モテ肌をゲット! DHC for MEN 超実感型!爽快スキンケア」という広告には、「通販でもドラッグストアでも手に入る身軽さと、そのさわやかな使い心地に、いつの間にかスキンケアを楽しんでいる自分に気づくはず!」という文章が採用されている。また、2007年6月号「毎日の洗顔はOK。その先が知りたいキミへ。初夏のスキンケア塾、本日開講!!」では、タイトル通り、洗顔をすでに行なっていることを前提としてスキンケアの特集が組まれている。この記事では、スキンケア方法より自身の肌に合わせた化粧水の選び方や化粧品の紹介が主な内容となっており、「自分に合うコスメを選ぶ楽しみ」という点に注目した記事となっている。
 これらはバブル期の「ダメ」「女のコに嫌われる」「失格」といった言葉が多用されていた時期の広告と比較した時、スキンケアに対して非常に前向きなコピーとなっており、スキンケアに楽しみを見出す男性たちの姿が想像できる。
このように、男性のスキンケアに対する姿勢が前向きなものに変化していく中で、スキンケアに積極的な男性は「男性用」とされていないものも取り入れていくようになる。
 この時期は、化粧に「癒し」が求められていることも特徴的だ。2007年11月号別冊付録「オトコ・ビューティ最前線!『美・メンズノンノ』プラチナム」や、2010年4月号の「MASAHインビューティー」ではヘッドスパ・エステ特集が組まれるなど、従来あったエステ広告とは別に、男性向けエステが紹介されている。当時、話題の女性タレント等を紹介するコーナーでは、「緩い」「癒し系」というワードが多用されており、さらに当時の不景気による貧乏生活を面白おかしく掲載した記事が多かったことから、厳しい生活の中に癒しを求める姿勢が化粧にも影響を及ぼしていたと言えるだろう。
 バブル期に男のスキンケアという概念が誕生し、「モテ」のために拡大したスキンケアは、バブル崩壊期にはビジネスシーンを中心として「好感度」獲得のためという目的に変化し、2000年以降一般化、定着したスキンケアは、2000年代後半には「楽しみ」「癒し」という多様な目的を含むようになった。

(次の記事:『6 目的が多様化する化粧(2011年から2015年)
』)

(注26)「無印良品アーカイブ」『無印良品 くらしの良品研究所』<HTTPS://WWW.MUJI.NET/LAB/MUJIARCHIVE/140910.HTML>良品計画、最終閲覧日:2019年12月3日。
(注27)「AESOP(イソップ)日本初の路面店オープン」『FASHIONSNAP.COM』<HTTPS://WWW.FASHIONSNAP.COM/ARTICLE/2010-12-08/AESOP-AOYAMA/>RECO ORLAND.INC、最終閲覧日:2019年12月3日。
(注28)高村是州『ファッションスタイルクロニクル イラストで見る“おしゃれ”と流行の歴史』グラフィック社、2018年、P.58。
(注29)高村是州『ファッションスタイルクロニクル イラストで見る“おしゃれ”と流行の歴史』グラフィック社、2018年、P.59。


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