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はじめに

 2018年、CHANELやTHREEが相次いで男性の使用を想定したメイクアップ用の化粧品を発表した(注1)。また最近、YouTubeには男性を対象にしたメイクアップの方法を解説する動画がたくさん公開されている。テレビには「りゅうちぇる」や「よきき」など、メイクアップを楽しんでいる男性タレントが出演するなど、「男性のメイクアップ」が世間で取り上げられるようになってきた。

 一言に「メイクアップ」と言えば女性がする行動であると思いがちである。しかし今起こっている現象は、女性らしい見た目になるための行動ではない。YouTubeで「メンズ メイク」と検索すると「かっこいい」「ナチュラル」「イケメン」といったワードとともに動画がアップロードされている。つまり、自分自身をよりよく見せるためのメイクアップなのだ。今、まさにメイクは性別関係なく行われるものに変わろうとしているのではないか。
 男性のメイクアップは、最近になって突然始まったことではない。平松隆円によると、人間が狩猟採集などで生活をしていた時代、化粧は呪術的な意味を持って男女関係なく行われていた。「不測の気象条件や治療方法の不明な病などの外的環境のなかで生きる人間にとって、身を守る」(注2)方法として、イレズミや傷跡、穿孔といった身体加工が行われた。また、個人がどの集団に属しているかという区別を図る目的もあったようだ。しかし、「社会が発展し支配する者が生じるとともに、化粧は従属性の象徴とな」った(注3)。特に平安時代、顔に白粉を塗るなどの「表情の消去」は、支配層に受け身な印象を与えるという理由から、男性の化粧は天皇と貴族などの支配・被支配関係において行われていたようだ。また、女性の化粧は父権社会への移行の中で、「家長や夫への従属」として行われるようになる。17世紀になると、それまでの「表情の消去」を目指していた化粧とは反対に、「支配層に対する忍従の否定」として薄化粧が行われるようになった。これまでの濃い化粧は身だしなみという意識は強くあったものの、「支配層の要求とは異なる化粧がおこなわれたという事実」(注4)は、人々に自然で自由な文化が好まれるようになったことの表れだとしている。
 男性が化粧をするのは男らしくないとされるようになったのは、明治時代(注5)からである。
以上のように、化粧は社会や文化の変化と関係して変化している。日本では戦後、バブル経済とその崩壊、インターネットの普及やスマートフォンとSNSの発達など社会が大きく変化している。その変化に合わせて、男性の化粧はどのように変化し、現在へとつながっているのだろうか。
 本論文では、『メンズノンノ』に掲載された美容に関する特集や広告とその変化から、男性の化粧が何を目的としたものだったのかを考察する。
『メンズノンノ』は、20代男性をメインターゲットにしており、Webページでは「カジュアルもモードも、20代男子に一番ささるメディア!」(注6)と紹介している。このメディアを選んだ理由は、バブルの時代やインターネットが一般に普及した時代、スマートフォンが普及した時代など大きく社会が変化する中でも継続的に発行されているため変化が観測できること、現在発売されている男性向けファッション誌の中で、発行部数が多く、現在発行部数一位の男性向けファッション誌『Safari』(注7)と比較し、創刊号から継続的に美容に関する記事や広告が掲載されているからである。
 本論文では化粧というテーマを設定しているが、ここではその「化粧」の定義を明らかにしておきたい。平松隆円は、「化粧」に関し以下のように述べている。

 化粧の語源をさかのぼってみた場合、そこには、ただ「色彩豊かに彩り、飾ること」だけを意味しているのではなく、「身なりをつくろい整えること」という身だしなみの意味が含まれている(注8)。

 これに倣い、本論文において「化粧」とは顔や体に手を加え、身なりを整える行為であるとする。具体的には、洗顔、ひげ剃り、眉剃りなどのグルーミングから、ファンデーションを塗ったりアイシャドウを入れたりするメイクアップまでを含む。

(次の記事:『1 女性に選ばれるための化粧(創刊から1990年)』)

(注1)竹田紀子「「シャネル」から男性用メイクアップライン誕生 94年の歴史で初」WWD JAPAN、2018年。<https://www.wwdjapan.com/articles/672838>最終閲覧日:2019年12月3日。
村上要「話題の「THREE」のメンズコスメ 実際試してビフォーとアフター比べてみました」WWD JAPAN、2018年。<https://www.wwdjapan.com/articles/674400>最終閲覧日:2019年12月3日
(注2)平松隆円『化粧にみる日本文化 だれのためによそおうのか』水曜社、2009年、P.307。
(注3)平松隆円『化粧にみる日本文化 だれのためによそおうのか』水曜社、2009年、P.308。
(注4)平松隆円『化粧にみる日本文化 だれのためによそおうのか』水曜社、2009年、P.309 。
(注5)西岡敦子「男性の化粧は受け入れられるのか ―男性の化粧行動から―」<https://www.jstage.jst.go.jp/article/senshoshi/54/4/54_332/_pdf>最終閲覧日
:2019年12月8日。
(注6)メンズノンノ編集部「MEN’S NON-NO ターゲット層の真実2020」<https://adnavi.shueisha.co.jp/wp-content/uploads/2019/10/mensnonno_target2020.pdf>最終閲覧日:2019年12月8日。
(注7)OTOKOMAE「メンズファッション雑誌 【発行部数ランキング】」<https://otokomaeken.com/mensfashion/10666
ビヨンデイジ株式会社、最終閲覧日:2019年12月8日。
(注8)平松隆円『化粧にみる日本文化 だれのためによそおうのか』水曜社、2009年、P.54。


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