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3 なりたい自分になるための化粧(1996年から2000年)

 1997年ごろまでの『メンズノンノ』には、1991年から1995年までと同様に美容特集や美容関連の広告記事が少ない。掲載されている広告も同様に、ヘアスタイリング剤や洗顔料等、シンプルなラインナップである。しかし、1991年から1995年までとの違いもわずかに見られる。1996年8月号101ページ『M COLUM』には、従来の『メンズノンノ』と同じく汗のニオイ対策が組まれているが、このコーナーのサブタイトルは『今月のヘルシー』である。他の号ではサプリメントなどが紹介されているコーナーだ。これより、汗のニオイ対策は、バブル期では「モテる」ための、バブル崩壊直後は好感度アップのための行動として扱われていたが、この頃からは化粧の中でもより衛生的観点から対策されるようになったと言えるだろう。汗やニオイの対策は年を追うごとに男性に定着していったと考えられる。事実、「2015年の制汗剤の市場規模は前年比3%増の389億円。1990年の市場規模は、167億円と試算されていたので、この25年でおよそ2倍に成長をしてき」(注19)ており、現在に至るまで汗やニオイの対策は男性の生活の中に浸透し、成長していると言える。
 1997年の『メンズノンノ』では、12月号232ページ『めざせ反町!カッコいい男の新・絶対条件。あ、目がキレイ!』という見出しでアイケアの特集が掲載されている。この時期の『メンズノンノ』にはこのように「なりたい」アイコン的人物の名前がはっきりと登場していることも特徴的だ。この時代の男性たちにとって、化粧はモテや清潔感以外に、自身の憧れるアイコン的芸能人に近づくという目的もあったようだ。この時代には 反町隆史主演のテレビドラマ『GTO』(1998年放送、最高視聴率35.7%)(注20 )や木村拓哉主演『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』(2000年放送、最高視聴率41.3%)(注21)など、現在に比べテレビドラマが圧倒的な視聴率を誇っていた。後述のように、SNSが発達して誰もが自分自身の容姿を発信できるようになったことで憧れの対象が多様化した現在とは異なり、テレビドラマに出演する男性が世間で「かっこいい」とされる基準であったことから、このように「なりたい」アイコン的人物の名前がはっきりと書かれていると考えられる。
 バブル崩壊後から1997年ごろまではあまり掲載内容に大きな変化の見られなかった『メンズノンノ』だが、1998年ごろからの『メンズノンノ』では美容特集が増加している。1998年からは、同年8月号87ページ『今月のビューティー』に掲載されたようなニキビ対策や、同年2月号『今月のビューティー』掲載の爪のケア方法など、バブル期に紹介されていたようなパーツケア、洗顔や化粧水等の基礎ケアに加えたフェイスパック等の肌のスペシャルケアがほぼ毎号で特集されるようになっている。これらの見出しには 『メンズノンノ』1998年2月号83ページ「爪の手入れなんて、女の子がするもんだ、なんて思っていてはいけない」 『メンズノンノ』1998年2月号83ページ「汚い爪は嫌われる!女の子は、意外に厳しくチェックしているぞ」といった、女性からの視点を意識した見出しが採用されている。
 こうして「女性モテ」を意識した広告が増加した理由には、ミレニアム景気が影響していると考えられる。第一生命経済研究所(2018)は「元年婚・元年ベイビーは増えるか~新元号効果を考える~ 」(注22)において、2000年から2001年にかけて、婚姻数が増加したことを述べている。

 当時、やはり2000 年を記念の年として結婚する人が急増した。2000年の婚姻数は、前年比4.7%増と過去20数年間で最も大きく伸びた。そして、次の2001年は1977年以来の最高水準となる(図 表1)。2000 年に結婚したいと思って婚活を始めた人は、2001年にも多く結婚したということだろう(注23)。

 こうして、2000年に向けて結婚を意識することで必然的に女性の視線を意識するようになったことが、美容特集の急激な増加につながっていると考えられる。
しかし、上記のように男性は化粧の目的として「モテ」を意識しているものの、その度合いは低くなっていることも読み取れる。1999年6月号220ページ『汗、ニオイ、テカリに勝つ!男のビューティー夏支度』では、「モテ」という言葉や視点がほとんど使われておらず、『メンズノンノ』1999年6月号224ページ「小麦色にはなったけど肌がボロボロ。これではシャープに見えるどころかキタナイ印象になりかねない。ではどう日焼けすると『かっこいい』のか、ここではそのコツを紹介する」といったように、自身の理想に近づく方法といった視点から書かれた特集が増加している。
 加えてこの時期には、男性の化粧と「女の子」の関係がわずかに変化している。1998年1月号203ページ掲載の記事では、「女の子の間ではすでに常識。AHAって一体何だ?」という見出しが採用されており、また1999年5月号210ページのスキンケア特集の記事では「女のコの間で話題」という見出しで、角質クリアコットンが紹介されている。これまで広告の見出しにおいて、男性の化粧と「女の子」は「モテたい」という関係で結ばれていた。しかし、この時代になると、女性の間で話題の商品を知ろうとする姿勢が現れ始める。これは男性が化粧をする時、モテという目的から離れ、自分自身の理想を追い求め始めた現れと言えるのではないだろうか。
 このことから、この時代から男性が化粧する目的は「女性にモテるため」でありながらも、なりたい自分に近づくという目的が含まれていたと考えられる。

(次の記事:『4 「普通のこと」となった男性の化粧(2001年から2005年)
』)

(注19)窪田順生「「ワキ汗」ビジネスがこの1~2年で拡大している秘密」『iZa』、株式会社産経デジタル、2016年。<https://www.iza.ne.jp/kiji/economy/news/160714/ecn16071417430023-n1.html>最終閲覧日:2019年10月16日。
(注20 )ciatr編集部「【完全保存版】歴代ドラマ視聴率ランキングTOP30【日本編】」『ciatr』、株式会社viviane、2018年。<https://ciatr.jp/topics/32558#index-20>最終閲覧日:2019年10月16日。
(注21)ciatr編集部「【完全保存版】歴代ドラマ視聴率ランキングTOP30【日本編】」『ciatr』、株式会社viviane、2018年。<https://ciatr.jp/topics/32558#index-20>最終閲覧日:2019年10月16日。

(注22)熊野英生「元年婚・元年ベイビーは増えるか~新元号効果を考える~」『Economic Trends』、第一生命経済研究所、2018年。<http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2018/kuma180524ET%20.pdf>最終閲覧日:2019年10月22日。

(注23)熊野英生「元年婚・元年ベイビーは増えるか~新元号効果を考える~」『Economic Trends』、第一生命経済研究所、2018年。<http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2018/kuma180524ET%20.pdf>最終閲覧日:2019年10月22日。


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