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7 自由の象徴としてのメイクアップ(2016年から現在)

 2010年台後半になると、化粧に関する記事はさらに増加する。
 2017年2月号124ページには「僕たちのリアル美容ライフ!」として、ファッションとともに美容に関しての質問が中心のスナップが掲載されている。127ページには美容行動に関するアンケートが掲載されており、「洗顔&化粧水をしていますか?」という質問に対して、90.3%の読者がY E Sと回答している。2015年2月号152ページ掲載の読者へのインタビュー企画「メンノン君の”リアル”」では、洗顔以外のスキンケアをしている人は62%という結果になっている。また、2004年2月号89ページ掲載「そのケアちょっとまった!プロがわかりやすくレクチャー 冬のスキンケア新常識・非常識」では、「コラム:スキンケアの実態」として、『メンズノンノ』読者150人にアンケート調査を行なっている。このアンケートでは、「使っている化粧品は?」という質問に対し「洗顔料のみ30%、洗顔料+保湿剤40%、洗顔料+保湿剤+毛穴パックなど20%、何もしていない10%」と読者は回答しており、洗顔以外のスキンケアをしている人は60%となる。2017年は2015年、2004年と調査方法が異なるため、単純に比較はできないが、30%も増加したことから引き続き男性の化粧への意識は高まっていると言えるだろう。
この時期、特に2018年ごろから、誌面における読者の立ち位置が微妙に変化していることが特徴として挙げられる。
 2018年からは毎号1ページ、毎年内容を変えて掲載される美容に関する記事が「BEAUTYインターンシップ」という、『メンズノンノ』モデルが美容に関する仕事にインターンシップをしてみるという内容の記事になる。この記事では、その職において重要なスキルと、1日の流れ、体験してみた感想といった構成でシンプルにまとめられている。これまでの同様の美容記事は、2008年から2010年ごろまで連載されていた美容記事「MASAHインビューティー」など、『メンズノンノ』のスタイリストがおすすめのコスメを紹介するといったような読者が「情報を受け取る側」であると想定した内容であった。しかし、この企画は化粧品の販売職や化粧品の撮影カメラマンといった、読者が美容の情報を「発信する側」を疑似体験できるような記事だ。ここから、『メンズノンノ』読者層にプロフェッショナルとして美容に携わること、知識を与える側になることに興味を持つ読者が一定数出てきたのではないかと考えられる。
 2019年からは、「BEAUTYインターンシップ」が「メンズビューティー研究所」と名前を変え、『メンズノンノ』モデルが新製品を使った感想をレポートするという内容になり、美容の情報を読者と仮想的ではあるが「共有する」という書き方になっている。
 このように、『メンズノンノ』における読者の立ち位置が変化した理由として、SNSが挙げられるだろう。
 総務省情報通信政策研究所「平成30年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(注35)」の「第2章2-1 インターネットの利用項目別の利用時間と行為者率」によると、20代男性のインターネットの利用項目別の平均利用時間は平日・休日ともに「ソーシャルメディアを見る・書く」「動画投稿・共有サービスを見る」という項目が最も時間が長くなっている。また、「第2章2-4コミュニケーション系メディアの比較②」によると、2018年の「コミュニケーションメディアの行為者率」は20 代で60%以上となっており、その利用時間も1時間近くとなっている。さらに、「第5章5-1 主なソーシャルメディア系サービス/アプリ等の利用率②」によると、2018年にかけて、InstagramやTwitterなどのSNS利用者数は伸び続けている。これより、美容に関する情報に限らず、情報が入ってくる場所や時間が増えたことで、『メンズノンノ』読者の男性たちは、これまでの『メンズノンノ』読者の男性と比較し知識を多く手に入れられるようになった。その結果として雑誌の存在は「雑誌は情報を手に入れる1つの場所」となり、誌面においても「教えられる」から「共有する」という対象になったと考えられるだろう。
 2019年2月号では、バブル期ぶりにメイクアップ商品が掲載されたことも特徴として挙げられる。これまでにも1986年12月号67ページ掲載「ヘアとメイクでビシッ!」のように、アイシャドウや色付きリップスティックと言ったメイクアップ商品とその使用方法が掲載されていたことはあったが、それはあくまでもパーティーやデートといった「非日常」においての使用を想定したものであり、「バレない」「自然」ということが重視されていた。しかし、2019年2月号124ページ掲載「FIVEISM×THREEでセンスアップはじまる」では、シルバーのネイルカラーや、はっきりした色味の赤や緑のフェイスカラーなど、自然やバレないと言った目的からは遠いメイクアップ商品が紹介されている。これらは同ページで以下のように紹介されている。

 Weekend 普段リングやブレスレットを選ぶように、顔や指先にペイントを加えてアクセントにしてみる。そうすると、またひとつファッションを楽しむ手段が増えたと考えることができるはずだ。

 こうして、メイクアップをアクセサリーのように見せるという目的で書かれている。さらに2019年11月号142ページでは、「メンズコスメのなう」というタイトルで、トレンドファッションに合わせたナチュラルなメイクアップの方法が掲載されている。同ページのインタビューでヘアメイクNOBKIYOは「最近は、髪の毛を整える、くらいの感覚で、コスメを使ったメイクができるようになってる」と語り、『メンズノンノ』モデル守屋は「ウィークポイントをカバーするってところが大きいかもしれないけど、ファッションに合わせて、っていう楽しみ方をしている人も増えてますし」と語っている。
 以上から、スキンケアにプラスしたメイクアップは、男性にとってより日常的に行う行動に近づいてきたと考えられるだろう。こうした動きの背景にも、SNSの浸透があげられる。
 日本経済新聞(2019)には、「「美容系男子」増殖中 SNS映え「美しさ」求める」というタイトルで、男性のメイクアップへの意識に関し以下のようにまとめている。

 男性向け化粧品製造のバルクオム(東京・渋谷)が昨年9月、10~30代の男女300人を対象にしたアンケートによると、今後「メークをすると思う(したいと思う)」「するかは分からないが興味はある」と答えた男性は35.3%だった。特に若年層の関心が高く、10代は45.9%、20代は41.2%にのぼる。(注36)

さらに、こうしてメイクアップへの関心が高い理由として以下のように述べている。

 最大の理由はSNS(交流サイト)の流行だ。自分の写真をインスタグラムなどに投稿する機会が増え、ミレニアルズは「見られる」意識が強い。目を大きくしたり、シミを飛ばして美肌にしたりする機能を持つ自撮りアプリ「SNOW」などを使う男性も多い。(注37)

 このように、2016年から現在にかけての『メンズノンノ』の読者層はこれまでの読者層と比較して他人の目を意識する機会が多い。また、Instagramをはじめ多くのSNSには、「他人との仲良しな様子」を投稿したいと考える人が多い(注38)。SNSの発達で、自らの外見が不特定多数に目にされることが多くなったことで、自分をよりよく見せたいという意識が高まり、男性にメイクアップへの興味を引き起こすきっかけになっていると考えられる。
 またこれらメイクアップの特殊記事には2019年4月号136ページの「メンズビューティー研究所」のFIVEISM×THREEのアイカラーの紹介文「今って、自由な時代だよね」や、2019年11月号142ページの「メンズコスメのなう」のサブタイトル「「メイク」は女子だけのもの?そんな時代が変わろうとしている。」に見られるように、「変化」や「自由」を意味する言葉が使われていることが多い。ここから、これまで一般に女性が行うものであり、男がするものではないとされてきたカラーメイクアップは、既存の「男らしさ」から解放される自由の印としての一面も持っていると考えられる。
 SNSの普及は多彩な個性を可視化させ、それは誌面にも現れている。2016年からのヘアカット特集は、「髪型にも、ポリシーとスタイルを。東京Hair DO!!!!」というタイトルで、スタイリストが街でハントしたモデル個人の持っている物を最大限に生かし、ヘアカットを施すという企画だ。カットモデルはスタイリストが実際に街に出て探し、それぞれに合うカットを施す。2016年2月号のテーマは「ゴシック」、3月号は「エモ・パンク」、4月号「フラットな個性」、6月号では「おしゃれに興味が出てきた中学生」などだ。1980年台後半の『メンズノンノ』にも、読者をヘアカットし変身させるという「今月のヘアカット」などの同様の企画は存在した。しかし、1986年10月号117ページ掲載「今月のヘアカット」では以下のようにヘアカットを紹介している。

 やりすぎ、暗そう、が最近は、一番の嫌われ者。無造作で元気っていうのが、ネライ目だね。それには、短めにカットして、前髪をキリリとあげるのが手っ取り早い方法。ひたいによほどの難点がないかぎり、顔や髪質を選ばない便利モノ。”明るい好青年”てな雰囲気で売れるって!

 これまでのヘアカットは、基本的にトレンドに合わせ、他人からの高感度を高めるためのヘアカットであったのだ。
 スキンケア特集にも、それぞれの持っているものを生かすという考え方が反映されている。2016年7月号104ページでは、「日焼け止めって、やっぱり使った方がいいの?日焼け止めコンシェルジュ」というタイトルで、日焼け止め特集が掲載され、「肌に悪いなら気をつけようかな…派は?」、「とにかく日焼けには気をつけたい…派は?」、「むしろ少し焼きたいんだけど…派は?」という分類で日焼け止めが紹介されている。2012年6月号212ページに掲載されている日焼け止め特集に採用された文章「黒い肌が男らしい時代はもう終わった!」に見られるような、個人の価値観を否定する言葉が使用されなくなった。
 若年層のSNSの利用について、堀好伸は以下のように述べている。

 2017年のSNSに関する活用についての調査によると、若年層の特徴として、日常生活の情報源には「一般人」を重視している。どういう一般人かというと、「自分のプロフィールに近い」、「そのジャンルで有名な人」といったように、「共感できる人」である(注39)

としている。
 これまでの、若者の多くが「明るい」「爽やか」といった特定の雰囲気や「日に焼けた肌」「焼けていない肌」といった特定のスタイルを目指していた時代とは異なり、若者はSNSで自分のキャラクターに近く、かつ「良い」と思えるスタイルを膨大な情報の中から選べるようになった。よって誌面の書き振りもそれぞれの持つ個性を伸ばし、また何かを否定するような言葉がなくなったと考えられる。
 以上より、2010年台後半の男性にとって化粧とは、SNSなど様々なツールで情報を集め、自分の持っているものを生かすことを目的としたものとなったと考えられる。また、特に装飾的なメイクアップという面においては、「男性はメイクアップをするものではない」という考えから自由になるという意味を持った行動であったと考えられる。

(次の記事:『おわりに』)

(注35)総務省情報通信政策研究所「平成30年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」総務省、2019年。<http://www.soumu.go.jp/main_content/000644166.pdf>最終閲覧日:2019年12月5日。

(注36)中村泰子 「「美容系男子」増殖中 SNS映え「美しさ」求める」『日経MJ 』、日本経済新聞社、2019年。<https://r.nikkei.com/article/DGXKZO40403220U9A120C1H52A00?s=4>最終閲覧日:2019年12月5日。

(注37)中村泰子 「「美容系男子」増殖中 SNS映え「美しさ」求める」『日経MJ 』、日本経済新聞社、2019年。<https://r.nikkei.com/article/DGXKZO40403220U9A120C1H52A00?s=4>最終閲覧日:2019年12月5日。
(注38)佐藤由紀奈「「SNSで投稿したいものランキング」を調査 インスタは“恋人”も!?」『Social Trend News』トレンダーズ株式会社、2018年<https://social-trend.jp/43223/>最終閲覧日:2019年12月5日。
(注39)堀好伸「平成の間に変わったステータス !「モノを買う」より「仲間たちと共感したい」若者たち」『FNN PRIME』、019年<https://www.fnn.jp/posts/00044936HDK/201905310000_YoshinobuHori_HDK>最終閲覧日:2019年12月8日。

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