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メタバースの相互運用性に関する考察

最初に



この記事でのメタバースの定義は、「人々が3次元空間上で経済活動を行うこと、あるいはそのバーチャル空間」とする。

前回の記事では、メタバースが大衆に普及するのは大体いつ頃かをスマホの事例をもとに予測した。(前回の記事

今回の記事では、2035年〜2040年頃にメタバースが普及した時、メタバース業界でのワールド間での相互運用性がどうなっているかを予測する。

メタバースの相互運用性とは、「IDや資産、アバターやアイテム等を様々なバーチャル空間で移送して利用できること」である。

左が相互運用性なし、右が相互運用性あり
(引用:pwc メタバースの実像に迫る

相互運用性は、将来のメタバースの業界構造予測やメタバース業界内での戦略を考える上で非常に重要な要素で、「本物のメタバースを実現するために最も重要なのは相互運用性だ」と言い切る人もいる。(引用

なぜ重要なのか?

それは、「クリエイターエコノミーを形成することができる→より多くのクリエイターや消費者が参入してくる→バーチャル空間での経済圏が飛躍的に拡大する→メタバースの実現に近づく」からである。

スマホ業界にはどのようなビジネスプレイヤーが存在するか


いきなりメタバース業界の相互運用性を考えるのは難しいので、まずはスマホ業界の構造及び相互運用性を考える。

スマホ業界の構造は以下のようになっている。

スマホ業界の構造

インフラ層は、4Gや5G等のインフラ。

ハードウェア層はiPhone、Samusung、Xpeira等のスマホメーカーがプレイヤーとして存在。

プラットフォーム層は、iPhoneはApple storeで、その他のスマホはほぼAndroid。

アプリケーション層は、ゲームアプリやニュースアプリ等をリリースしている企業がプレイヤーとして存在している。

スマホの相互運用性について

スマホのアプリケーション層での相互運用性について考える。

iOSとAndroidの同一アプリ間(ex.iOSの荒野行動とAndroidの荒野行動)には相互運用性がある。これはアプリ運営会社が同じなので当然と言えば当然である。

iOSの異企業アプリ間、Androidの異企業アプリ間、iOSとAndroidの異企業アプリ間には相互運用性がない。これは、1)NFT等の技術がまだ台頭していなかったから、2)プラットフォーム層の規制が厳しかったから の二つの原因が考えられる。

具体的にみていくと、

1)ブロックチェーンを用いずに異企業アプリ間で相互運用性を実装しようとすると、企業間共有のデータベースを作成する必要があり、そのデータベースを誰がコストを払ってどう責任を持って運営していくのかを考えると非常にコスト効率の悪いものとなってしまう。

2)例えばapp storeでは、appleが定めたルールのもとアプリを作成しアプリを運営していなければいけない。これは想像だが、アップルが自社の収益を確保するために、異企業アプリ間での資産やアイテムの相互運用性を制限していたと考えられる。

メタバース業界にはどのようなビジネスプレイヤーが存在するか


ここからが本題である。

スマホの事例を踏まえた上で、メタバース業界にはどのようなビジネスプレイヤーがいて、相互運用性がどうなっていくかを予測していく。

メタバース業界の構造

インフラ層は、4Gや5Gのインフラ。現時点のコンピューティング、ネットワークのインフラでは、現実レベルの立地で没入感がある体験をメタバースで再現するのは難しい。インテル等を中心に研究開発が進められている。

ハードウェア層はMeta(旧Facebook)、Valve、HTC等のヘッドマウントディスプレイメーカーがプレイヤーとして存在。

プラットフォーム層は、Meta Questの場合はOculus store、Valveの場合はSteam。

アプリケーション層は、Beatsaberなどのゲームアプリ(ワールド)やVRChatなどのソーシャルアプリ(ワールド)等をリリースしている企業がプレイヤーとして存在している。またMetaが提供しているHorizontal Worldも含まれる。

メタバースの相互運用性について



次に、メタバース業界での相互運用性について議論する。

メタバースでの相互運用性は大きく3パターンに分かれると考えられる。

① 一つ目が、現在のスマホと同様で、同企業が作ったアプリ(ワールド)間のみ相互運用性が担保されているパターン。

② 二つ目が、①に加えて、同プラットフォーム内のアプリ(ワールド)間では相互運用性が担保されているパターン。(例えばOculus storeでインストールできるアプリ(ワールド)なら、たとえアプリ(ワールド)制作企業が違っても資産やアイテムの移送が可能)
いわゆるクローズドメタバース。

③ 三つ目が、②に加えて、異なるプラットフォームにあるアプリ(ワールド)間での相互運用性も担保されているパターン。(例えばOculus storeにあるA企業が作ったアプリ(ワールド)と、SteamにあるB企業が作ったアプリ(ワールド)との間でも、資産やアイテムの移送が可能。もっと拡張すればVRアプリとスマホアプリ間でも移送が可能、など)
いわゆるオープンメタバース。


予想だが、時系列で ①→②→③ と徐々に変化していくのではないかと考える。

現時点(2022年4月)は、①の状態である。Oculus store上のアプリ(ワールド)同士でさえ、なんの相互運用性も持たない。



やがてMetaなどの大手プラットフォーム企業が、自社のプラットフォーム上のアプリに対して相互運用性を担保するような規格を設定すると考えられる。(要は②になる)

なぜなら、大手プラットフォーム企業がプラットフォーム内で規格を作って相互運用性を担保することで、エンドユーザー及びアプリ(ワールド)開発企業にとって利便性が高まり、自社の経済圏の活性化につながるためである。

さてここで、大手プラットフォーム企業がプラットフォーム内で規格を作ったのは良いが、実際のデータ(規格化されたアカウントデータ、アバターデータ等々)をどこに保存するかで更に二つに分かれる。

大手プラットフォーム企業が保有するデータベースに保存する(中央集権的) or NFTを用いてブロックチェーン上に記録する(非中央集権的)。

「③への移行のスムーズさ」及び、「エンドユーザーが真にデジタルアセットを保有し、外部マーケットでも売買できるというメリット」の二つを考慮すると、 NFTを用いてブロックチェーン上に記録する方法が望ましい。

最終的に、大手プラットフォーム企業が自社が作った規格をオープンソース化し、他のプラットフォームがその規格を採用することで、異なるプラットフォーム間でも相互運用が可能となる。

大手プラットフォーム企業が自社内にとどめていた規格を、完全にオープンソース化する理由だが、1) 外部プラットフォームとの相互運用性を担保した方が、大手プラットフォーム企業目線でも経済合理性が高い 2)大手プラットフォーム企業内のみに規格を止める閉鎖的な運用をしていると、外部のプラットフォームに淘汰される可能性が高い からである。

結論

メタバースは現時点では相互運用性はほとんどないが、徐々に相互運用性が満たされていく。

具体的な順序は、

1)まずは大手企業プラットフォーム内(ex.Meta社)でのみ規格が作られて、そのプラットフォーム上にあるアプリ(ワールド)間のみ相互運用性が担保される
2)複数企業のプラットフォームで規格が共有され、あらゆるアプリ間の相互運用性が担保されるようになる

また、データの保存場所はいずれの段階も、一社のデータベースに保存するのではなく、ブロックチェーン上に非中央集権的に保存される。

次の記事では、日本企業の強みを分析した後に、グローバルでの熾烈な争いが予測されるメタバース業界で日本企業がどう戦っていくべきかを議論する。

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