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トラウマなんて、簡単に癒えないんだ。

わたしには、いくつかトラウマがある。

1番しんどかったのは、術後腸閉塞でイレウス管を入れる施術を受けた時。喉にお情け程度の麻酔を塗られ、小腸の入口まで太い管をズルズルと入れていくという、単純だが何とも恐ろしい処置だ。管が動く度に、身体の中に溜まっていた緑色の液体を何度も吐いて、それでもなかなか管が進まない。2時間近くかかっただろうか、身体は冷え切ってガチガチになって、終わってからもすぐには楽にならなくて、身体から水分がどんどん無くなるから怠くなるわ、それでまた大量に点滴されてまたお腹は張って腰回りが何とも言えない痛みに襲われた。

虫垂炎で開腹手術を2回した後、わたしの内臓はかなり癒着してしまって、月1回は腸閉塞を起こすようになってしまった。根治手術も、開腹すれば再び同じことになってしまう可能性がある。だから自分で、腹腔鏡手術で治してくれる病院を探して、(何度目かの腸閉塞になって一晩入院した時、痛みと気持ち悪さで眠ることもできず、スマホで検索しまくった。)紹介状を書いてもらった。

手術は成功したのだが(癒着は酷く、5時間の手術だった。)次なる試練が待ち構えていた。第二子妊娠時の逆子問題である。
36週に入っても、娘はクルクルとお腹の中で回り続け、検診のたびに頭の位置は変わった。
「帝王切開でお腹開いて腸閉塞になりたくないから、何とか逆子が治って欲しい…。」
すがる思いで、常々お世話になっていた人に相談していた。彼は色々手を尽くしてくれたけれど、ある時ぽつりとこう言った。
「かわいい我が子のためなら、お腹を切るなんて何てことないでしょうが。」

愕然とした。そしてその言葉はじわじわとわたしを苦しめた。これが彼の本心だったのか。
でもそれは、自分が開腹手術を受けたことがないから言えること。腸閉塞になったことがないから、それがどんなに痛くて気持ち悪くてつらいか知らないから、イレウス管を入れたことがないから、それがどんなに苦しいか体験したことがないから。子どもはかわいい。無事に産まれてきてくれればいい。でも、もうあんなにつらい思いはしたくない。そう思うことはいけないことなのか?

とても信頼していた恩人だった。最初にうつ病になってからずっと。身体を通して、心も癒してくれるはずの人だ。
ああ、この人とはいずれ会わなくなる。薄々わかっていたことが、明確になり始めたきっかけの出来事だった。

自分も家から出られなくなるような、つらい思いをしてきたことがあると、彼は言った。でも、あなたの知らない痛みなんて、この世の中にはいっぱいあるんだ。どんなことをしたって、癒えない痛みもあるんだ。トラウマを舐めるなよ。

(無事に3歳になった娘は、結局、分娩中に逆子になり、奇跡的に普通分娩でするっと産まれてきてくれた。お腹の中で楽しく、ぐるぐる回っていたであろうことがわかるような、陽気な子である。)

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