マガジンのカバー画像

言霊になれない言葉たち。

26
運営しているクリエイター

2021年7月の記事一覧

煙草の煙に包まれた

何を見てもあなたを思い出す世界に
独り取り残された。
変わらず笑い声に包まれた世界に
音だけを失くした。

暗闇ではなくただの黒い夜に
途方に暮れて
あなたの声に似ている音に
ただ手を伸ばした。

何を見ても過去に重ねて
時間を止めて。
何をしても過去に重ねて
今から目を背けて。

あなたの居ない世界で
光を感じてしまう事が
ただ怖くて。
壊れた夜の隙間に逃げた。

あなたの居ない世界で
初めての

もっとみる
土曜日の昼

土曜日の昼

魚の焼かれる匂いがする。
吐き気がするほど腹が減る。
隣の家からだと気が付いて、
ランドセルを投げ捨てた。

ブランコは
いつも夕暮れに揺れている。
砂場は猫と一緒に眠る場所。
ブランコは
いつも夜に止まる。

母を演じる他人が夫婦の舞台から降板し
寂しさを演じる子供の目に映る世界を
僕は探している。

駆け出せば坂道
転ばないと止まれない。

月光の迷路

月光の迷路

約束を交わさずに済んだのは
せめてもの救いになった。
金曜日の夜は月が青かった事
思い出せたから救われた。

夜に降る雨にだけ濡れる花を見た。
悲しく無いのに涙する夜に重ねていた。

最後の言葉を呑み込んだのは
青い月が雨を呼ぶ事を知っていたから。
子供の泣く声が雨によく沁み込んで
地面に落ちる前に消える煙草の煙。

声のある方に振り返っても、独り。
いつかどこかで会えると確信しながら
言い聞かせ

もっとみる
さよならの続き

さよならの続き

優しいだけの別れを贈ろう。
明日もなく未来も無い。
未練を殺して生きよう。

炎に包まれた別れの言葉。
灰を集めても風に散らそう。
乱れた髪で明日を生きよう。

地図に無い街

地図に無い街

いつも濡れた町
店が始まる前から降っていた。
傘を失くした人が歩いてる
歩きながら歌っていた。
咳込みながら酒を吐く。
歌いながら独り笑ってた。

いつも濡れた町
店が終わっても降っていた。
打たれながら雨を見上げてる
湿った煙りは臭いが濃い。
咥えたまま独り探していた。

今日も町には雨が降り
奥の席で夜を探していた。
あれから誰かが死んだと聞いた。
誰かが誰かと知らないが泣いた。

今日も誰か

もっとみる
花宴

花宴

今日を見渡せば、まだ夜が始まらない。
激しく降ると言われた雨も、
まだ気配を感じはしない。

明日を諦めれば、遠雷に気が付かない。
潰されて弾けかける太陽が、
夜の前に激しく燃え上がる。

もう、会えない貴方を思う。
記憶にならない様に
思い出にならない様に。

青く浮かぶ月ならば、誰かが悪口を言う夜。
曖昧に浮かぶネオンの隙間からは
いつも灰色に揺れて見えた。

夜に凍るネオンを辿る。
何も思い

もっとみる
手を離せば。

手を離せば。

朝、
夢と現実に彷徨う瞼の裏に
夕暮れに生きる蝉の声に目覚める夏の日を見る。

手を繋ぎ導かれたのは何処かの海辺か山の中。
もしかしたら知らない人の家の前。

手を離す前。
最後になるはずの交わした言葉に
絶望も知らず希望もなくただ頷いただけ。

朝、
目を開ければ夢の記憶はなく涙の跡、
涙の跡を辿っても夜明けの記憶もない。

手に残る曖昧な二人からの愛。
生まれて来たけど、生きて来たのだろうか。