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恋人が死のうとした話

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2022年11月に起きたわたしにとって大きな出来事をまとめています。忘れたいのか、残しておきたいのか。自分でもわからないけれど、ゆっくりと書き続けています。
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#エッセイ

泣いた理由【恋人が死のうとした⑥】

泣いた理由【恋人が死のうとした⑥】

福岡から戻った次の日。
十分休んだつもりだったが、体調はやはり戻らなかった。

ダブルワーク先の事務は休ませてもらったが、ホテルの夜勤は休むわけにはいかない。
風邪薬、のど飴、龍角散ダイレクト、思いつくままに頼れそうなものを持参して、どうにか働いた。
声もおかしく、あきらかに体調が悪そうなわたしにみんな心配そうな目を向ける。
「コロナではなかったから!」
うつされる心配というわけではなかったらしい

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カラフルといぶし銀【恋人が死のうとした⑤】

カラフルといぶし銀【恋人が死のうとした⑤】

もしかして、体調が悪いかもしれない。
その日、起きてすぐそう思った。

彼が自殺を試みた翌日、わたしは職場に普段通り出勤した。
いつもよりiPhoneの通知は気にしていたが、普段通りの仕事をこなせたと思う。
そしてさらに翌日、夜勤明けで彼を病院に連れて行った。
手首の傷を縫合した経過観察のためだった。
彼は風邪をひいていた。
あの日、お風呂場でびしょ濡れのまま、倒れていたのだから当然とも言える。

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長い一日が終わる【恋人が死のうとした④】

長い一日が終わる【恋人が死のうとした④】

スマートウォッチの振動で目が覚めた。

彼の母親からの着信だった。
時刻は午後7時半過ぎ。3時間ほど眠っていたらしい。
彼の母と弟くんが新幹線で名古屋に着いたようだった。
そういえば、どこで会うのか決めていない。家は論外だ。でも、支えがないと歩けない彼は近場でないと無理だろう。
「どうする?」と同じく寝起きの彼を振り返ると、いまだ薬が抜けきってはいない様子だった。それでも彼自身で家のそばのカフェに

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母は偉大【恋人が死のうとした③】

母は偉大【恋人が死のうとした③】

土曜日の昼過ぎの病院で、わたしは売店に急いだ。

彼の靴を持ってきていなかった。救急車で運ばれたのだから、履いているわけがないのに。衣類を取りに帰った時に持ってくるべきだったのだ。
自分の考えが足りなかったことが悔しい。
どう見ても100均で売ってそうなスリッパを1000円で購入した。

高い。

彼が生きているからこその出費だから惜しいと思ってはいけないのにもったいないと思ってしまった。

先ほ

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わたしのほうが死にてえよ【恋人が死のうとした②】

わたしのほうが死にてえよ【恋人が死のうとした②】

病院内は静かだった。

そもそも普段病院に行かない上、ここが初めて来る病院だから普段の喧騒をよく知らないが。
今日が土曜日で救急対応のみというのも関係があるだろう。

目の前を中学生くらいの女の子が腕に包帯をして通る。体操着だった。部活中に怪我をしてしまったらしい。付き添いで祖父母や顧問の先生もいた。当事者たちからしたら大変だろうが、なんとなく微笑ましく思えた。
それは、制服の警察官2人に挟まれた

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恋人が死のうとした日

恋人が死のうとした日

あの日は暑くも寒くもなくちょうどいい天気の日だった。
10時に仕事を終え、スーパーとケーキ屋へ立ち寄り11時前に帰宅した。
部屋の鍵を開けて、

開けたつもりが鍵は閉まった。

まったく、締め忘れて不用心だな。家の中に彼がいることはなんとなく分かっていた。
アパートの駐輪場には彼の自転車があったからだ。わたしが2年前に購入した黒色のスポーツタイプの自転車。彼が名古屋に来た際に、地下鉄以外の移動手段

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11月12日(土)

11月12日(土)

 2022年もまもなく終盤という時期にして、一大ニュースを掻っ攫っていった出来事だった。一生忘れないと思うし、忘れたくないのでこうして書き残すことにした。