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『のさりの島』を見ました

(2021.7 記)
これは以前から、見ようと思って公開を待っていた作品だ。プロデューサーの小山薫堂さんが自身のラジオ番組でことあるごとに宣伝し、タイトルが頭にすり込まれてしまったからである。ご丁寧に前売券まで購入し、日を選ばずいつでも行けるぞ思っていたら、なんと山本起也監督の舞台挨拶日にたまたま都合がついた。作品への思いの丈はもちろん、思わず笑みがこぼれる裏話もあり思わずパンフレットも購入した。

単独で特殊詐欺を働く若者が九州の寂れた街の商店街でひと仕事するはずが、電話した先の楽器店で本物の孫が帰って来たのと間違えられたのか、太と食事を用意され、酒に酔ってそのまま眠り込んでしまう。店主の老婆は認知に問題があるのか、それともこの男が偽物と知って何か企んでいるのか。という物語の根幹はあれど、コミュニティFMや古い映画館、イルカウォッチングの乗船券販売所などに勤めこの地に暮らす人々の素朴な生活を切り取り、優しく見守るドキュメンタリーのような作りとなっている。「のさり」とは、「起きたこと、そして起きていることを受け入れる」姿勢を指すらしい。鈍い私は最後の最後になってピンときた。なぜ登場人物ほぼ全員、波風立てず過ごしているのかいまひとつ共感できなかったのだが(その中でも一人、分かりやすい派手なアクションを起こす者がいる。私はその人物とほぼ同じ理由で同じ行動に出たことがあるのでどうしてもこちらに肩入れしてしまうのだが…)これは「妥協」なんかではないのだ。現に彼らの毎日は、彼ら自身の舵取りによって少しずつ変わって行くことを思い起こさせながら、物語は一旦幕を閉じる。

視覚以外に訴える演出が多くあり、とくに鯛焼きの機械が立てる音はその食感や香りまで想像できる。とにかく見ている者を天草の風の中に呼び込む作品である。それにしても本筋と直接関連するわけではないが、イルカウォッチングの受付のお姉さん、貴女とにかくかっこいいよ。

上映館全部かどうかは分からないが、劇中に登場した牛乳箱が設置されており、ここに感想の手紙を入れると天草まで届けてくれるらしい。上映終了に間に合わせないと。

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