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〈野原〉の財布


ゆるりとお守りのように一本の紐で結んである。

しっかり結ばなくてもいい。

程よく、適度にリラックスしていてほしい。

本当に大切なものはお金そのものではないから。

誰かを想ったり、ちいさな喜びのために私らしくお金を使うとき、あなたは厚くなったり薄くなったりしながら深呼吸を繰り返す。

同じ生命として、同じ地球で生きていたかつての命がそのまま宿っている。

その生きている柔らかさが心地よい。

まるで大好きな本の1ページをめくるように紐をほどく。

同じものでも使う人の利き手によって開いた時の表情も異なっている。右開き。左開き。ただの正反対ではない、そこに垣間見える美しいモノのシルエットは動物たちの皮がみせる個々の表情たち。

大きく開かれたそこには一円玉、十円玉、五百円玉がころころと原っぱで寝転がっているみたい。

お札はいくつか必要な分だけをそっと慎ましく包んでくれる。カードは万が一の助け舟。大地に眠るロマンの舟のように静かに然るべき時を待つ。

そしてあなたの真ん中は小さなポケットがそっと施されている。大切なものが心の真ん中に存在していることと似ている。

だからその真ん中に、心ときめく私そのものを入れておく。

ときめきを失わないように、私を見失わないように、願いながら入れておく。

革の香りが命を一番に呼び起こす。光や風、時の流れがあなたを撫でていく。

あなたの命は地球に磨かれている。これまでも、これからも。

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