職場のハラスメントと使用者の責任-個人から個人へのセクハラとパワハラについての考察-

この記事の有料部分には私の修士論文へのリンクと、リンク先ファイルを開くためのパスワードが記載されています。
つまり、この記事を購入していただくと、私の修士論文を読むことができます。
この修士論文は、2020年1月に明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科に提出し、受領されたものです。
修士論文の著作権者は私です。
リンクとパスワードを著者である私に無断で配布しないでください。
この修士論文と有料noteについての注意書きは https://ameblo.jp/kinsey/entry-12570338911.html にありますが、同様のことを再度記載しておきます。

この論文は上述の通り大学院に修士論文として提出されたものです。
大学院の事務局にほかの修了生の修論とともにCDに近日中に収録されるはずであり、どなたでも無料で閲覧することが可能です。

大学院までわざわざ行くのは面倒なので有料で読んであげてもいいよ、という方はご購入いただけるととてもうれしいです。

修論のオフィシャルな要旨はありますが、もっとカジュアルに言うとこんな感じです。
*
パワハラ防止法成立もあり、最近、パワハラ・セクハラなど、なんでもかんでもハラハラ言っているようなご時世です。
会社でハラスメント研修を受講すると、パワハラ・セクハラが民事訴訟にまで発展すると損害賠償金額が巨額になることもあるんですよ、と脅されたりします。
けど、なぜでしょう?
上司が気に入らない部下を僻地に左遷した、とか、女性だからと言って女性職員を昇進させない、とか、会社の法人としての行動に対して会社が損害賠償しなきゃいけないというのはまだ分かる。
けど、先輩が後輩を殴ったり、男性上司が女性部下の胸をさわったりというような、個人の行動になぜ会社は損害賠償をしなきゃいけないの!?
なぜなぜ?どうして?
なんで会社が従業員個人のケツをぬぐわにゃならんのよ?
それってなんとかならないの?
損害賠償って、どうにか軽減できないの?
という疑問に答えるべく、職場のハラスメント問題を会社目線で考察しました!

学部時代に全く勉強していなかった私が、ビジネススクールの修論として書いていますので、用語の解説もつけて読みやすくしてあります。
もともとはノウハウ本的に書いていたのですが、指導教官から「学位論文だから、ノウハウ本はダメ。」と指導を受けましたので、「論点を整理する」というかたちで書いています。
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キーワード:パワハラ、セクハラ、不法行為、使用者責任、求償、逆求償、債務不履行、安全配慮義務、職場環境整備義務、職場環境配慮義務、労使慣行、懲戒処分、社労士、改正労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法

以下、論文の抜粋

【要旨】
2019年5月29日に可決、成立した、パワハラ防止法を受け、使用者(雇用主)の視点から、職場で起こる個人から個人へのハラスメントにおける被害者から使用者への民事責任追及について検討した。
 構成としては、不法行為構成と債務不履行構成がある。
不法行為構成の中では、使用者は加害者従業員のハラスメント行為について使用者責任を負う。また、ハラスメントが発生するような職場環境を調整・配慮しなかったことが使用者の責任となり、使用者自身の不法行為として追及される。
 債務不履行構成としては、ハラスメントが発生するような職場環境を調整・配慮する義務が使用者にはある、という法的要請から、その義務を履行するように求められるか、損害賠償を請求される。
 これら法律構成の分析、及び、ハラスメントが日常的に発生することを前提とし、使用者が負う責任について論点を次の通り整理した。
a 使用者責任の論点-違法性
b 使用者責任の論点-事業執行性
c 不法行為責任の論点-相当因果関係
d 使用者から加害者従業員への求償の論点-求償の限度と労使慣行
e 安全配慮義務、職場環境整備義務・配慮義務違反の論点-文書化
f 懲戒処分の論点-就業規則への記載

 立法論としては、金銭解雇の法制化と民法715条1項 使用者責任の免責条項の有効化を期待したい。

1 はじめに-本稿の目的
 2019年5月29日、パワハラ防止法が参議院本会議で可決、成立した。2020年6月施行 の法律名は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」であり、これによって「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)を改正することで、パワー・ハラスメント防止対策が法制化されている。改正後の労働施策総合推進法が、今後はパワハラ防止法と称されるようである。
 この法案の検討・審議の進み具合にあわせるように、近年、各種ハラスメント行為が報道などで取り上げられることが増えている。また、職場でハラスメントについての研修を受ける機会がある人も多いであろう。この研修では、ハラスメント問題が訴訟に発展した場合に加害者従業員と使用者(加害者従業員の雇用主)が多額の賠償金を支払うこともある、と講師から言及されることが多々あるようである。
 しかし、そもそもなぜ使用者が賠償金を支払わなければならないのか、という説明は十分になされていないと感じられる。この疑問は、被用者である加害者・被害者との間の問題について使用者が責任を取るべき理由に精緻な説明がされないことが原因かもしれない。
 ハラスメントが使用者の指示によるものであれば賠償金の支払いに納得がいく。使用者が、業務上の要請や指示・命令に非協力的な労働者に対して行われた懲罰的・報復的措置(意図的に昇進させない、経営改善策の提案や退職勧奨等に応じない労働者に対する配置換えや降格の措置等)や労働者の正当な権利行使に対する報復的措置(組合活動や年休の取得、出産休暇、育児休暇の利用等法律上の正当な権利行使の妨害)等について、使用者の法人としての行動に対して使用者が責任を問われることは、おそらく誰からも疑問を持たれないであろう。
 では、使用者が関与していない場合はどうか。ハラスメント行為の中には、男性上司が部下の女性の胸部を触る・先輩が後輩を殴る、というような個人から個人へのハラスメントも多い。このような個人対個人の関係の中で発生するハラスメント事案に対してなぜ使用者が責任を問われなければならないのか、使用者は免責されないのか、免責されるためには使用者はどうすればよいのか、職場でハラスメントが起こった際 に使用者の受ける損害をいかに最小化するか、を使用者の視点から考察・検討することで、雇用主の理解を深めるとともに、実用的な論点を整理し、もって今後の雇用主の経営に役立てようというのが、本稿の目的である。
 雇用主視点に立っての議論では社会的公正さに欠けるという批判はあるであろう。しかし、本稿はビジネススクールという経営者を育成することを主目的の一つとした大学院の修士論文として執筆されたものであるため、雇用主・経営者視点で検討することは当然である。また、そもそも労働法分野そのものが「労働者は保護するべきだ」という前提に立っており、労働者視点の法であるという言い方もできる 。よって、本稿がハラスメント分野の議論にあえて雇用主視点で一石を投じることは、この分野の社会的公正さを目指すことにつながるであろう。
 考察にあたっては、研究が先行しているセクシュアル・ハラスメントを手がかりとして、個人から個人へのセクシュアル・ハラスメント、パワーハラスメントと呼ばれ得るものについて検討した(意味が重なる領域があるであろうが、マタハラ、モラハラ、アカハラ、については取り扱わない)。用語の定義については後に触れる。本稿は主に大賀、奥山、菅野、土田、内藤、山川の先行研究を基礎とし、できるだけ近年の裁判例を検討した。先行研究と裁判例については、次章以降随所で触れる。
 次章以降、引用などの都合がない限り、セクシュアル・ハラスメントをセクハラ、パワーハラスメントをパワハラと略して表記する。
 また、本稿はビジネススクールの修士論文として、ビジネスパーソンが理解しやすい説明を試みるものであるから、用語はできるだけ平易なものを用いる。

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