書評『地震イツモノート』

 本書は、1995年1月17日午前5時46分に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の被災者167人に震災から12年経ったのち、あのとき何を思い、何をしたのか。そして今、何をしているのか。話を伺い、作られた防災マニュアルである。被災者の気持ちやそれぞれの工夫をまとめたノートのようなものだ。冒頭では「モシモ型防災」「イツモ型防災」という言葉を使い、簡潔に説明されている。本書を見つけた時、まず背表紙に書かれていた「キモチの防災マニュアル」という言葉に心惹かれた。そして、私たちの心の中に生きるべく防災を知りたいと思い、本書を読むことを決める。表紙の絵は「もしも」と「いつも」を分かりやすく表現されているので「この中にはどんな絵が描かれているのだろう」とココロも踊った。普段、被災者の方々の声を聞ける機会はほとんどないので167人のお話が集まっている本書からあの日の本当の話、あの日があったからこそわかった話を知りたいという思いも芽生えた。

 読み進めていく中で強く印象に残った事実がある。「日本で地震が発生しなかった年はほぼ無い」ということだ。日本は地震大国と言われており、今まで多くの地震が発生してきた。だが実際には、自分の身の回り以外で発生した地震に関しては把握していないものも多く、本書で「地震とつきあいながら生きていく国」という一節を読むまで、毎年日本で地震が発生しているという感覚が正直無かった。いつ、どこであっても自分自身が被災者になる可能性はゼロではない。なのに、地震に対しての考えが「ジブンゴト」でなく「タニンゴト」であったことに気付かされた。地震と共に生きてきた、これからも付き合っていかなければならない日本で生きる者として、これからは「ジブンゴト」思考で地震や防災に関わっていくことを心に決めた。

 本書は、大きな地震を経験していない、防災がよくわからない若者に一度、手に取って欲しいと思う。私たち世代の多くが受けてきた防災教育は真面目で堅いものがほとんどである。だからこそ、良くも悪くも地震・防災に関してどっしり構えてしまっているし距離感を感じる。この本は当時のイメージが膨らみやすい絵や図も多く、読もう読もうと力まなくても自然と文章が頭に入ってくる。また「地震が教えてくれる未来」という章は私たちが学び、活かしていくべきことで溢れていた。

 構えつつも自ら歩み寄って、これからの時代に適した防災を考えていくのが私たちにできる過去に対する感謝と恩返しだ

(文:芝 光彩)

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