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ノムさん、あなたがいない毎日は本当につまらなくて

号泣した。いや、読む前から泣いていた。

"号泣する準備はできていた"のだ。

故野村克也監督の名文。何度繰り返し読んだだろうか。

淡々と、冷静に寂しさを語る。静かな文章なのに愛が溢れていて、自然と涙が出る。年に何度かこの文を読んで泣きたくなる周期が訪れるほど、私はこの文に惚れている。



元々野村監督のことは好きだった。小さい頃、いとこがヤクルトファンで、家に遊びに行くと、”あの”小さい緑の傘を振り回して野球を観戦していたから、その頃から知っていた。

ノムさんが阪神の監督になった年、巨人との開幕戦を観に行って、今岡のホームランボールが間近に飛んできたのを覚えている。阪神ファンのおっちゃん達にもみくちゃにされた挙句、ボールは取れなかった。(その後、元木が打ったホームランボールは阪神の応援席から球場に投げ返されていた。ちょっと欲しかったが、おっちゃん達が恐くてとてもじゃないけど言えなかった‥。)

ノムさんが講演会で地元に来た時には聴きに行ったし、楽天の球場にも、マー君ファンの友人と行ったことがある。マー君は遠くからしか見えなくて、友人はずっと泣いていた。私は、友人を慰めながら、苺マシュマロ大福みたいな楽天球場のお土産のオヤツをずーっともぐもぐ食べていた。

「ボヤき」もテレビの前でいつも楽しく観ていた。物凄く頭が良い人なのは知っていた。

でも。こんな素敵な文を書く人だなんて、失礼ながら全然知らなかった。もっともっと、ノムさんが大好きになった。

めったに言葉を荒らげることのない私だって、何度怒鳴りつけてやろうと思ったかわからない。
だけど、彼女と別れようと考えたことは、人生で一度たりともなかった。
「俺以外に、お前と上手くやっていける人間が、この世にいると思うか」
そういう気持ちだった。
私は生来の不安性で、ふとした瞬間に弱気の虫が顔を出す。そんなとき、平然とした顔で「なんとかなるわよ」と励ましてくれる彼女に救われた回数は、数限りない。
悪妻かどうかは、周囲ではなく、夫である私が決めること。何度聞かれても、私は断言できる。
「サッチーは、これ以上ない最良の妻であり、私にとっての最高のラッキーガールだった」と。

私たちは性格も、考え方も正反対だった。けれども、長く一緒に生きるうちに、すべてが溶け合っていた。私たちは二人で一人だった。

あぁ、本当に、夫婦ってなんだろう。

当人達以外にはわからない事ばかりだし、もうお2人はこの世にいない。当人達にもわからなかったのかも知れない。それでも長い間一緒にいるうちに、自然と溶け合っていくのだろうか。そんな夫婦関係を築いて行きたいものだ。

ノムさんと言う人をよく知っているから、尚更この文が素敵に写る。魅力的な人生を歩んだ人の文章は、本当に輝いて見える。

ノムさんのような素敵な文章が書きたいけれど、一生書けないかも知れない。それにしても、こんな名文が無料で読めてしまうなんて、贅沢な時代だ。


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