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真珠の別名は人魚の涙

春は別れの季節というが、私の別れは今日だった。
春じゃなくて夏じゃないか。
いや、まだ梅雨は明けていないけどもう夏みたいなもんだから。細かいことはいいじゃないか。

雨が降り続き長靴を買おうか迷ったり、暑い日差しに日焼け止めと帽子を持ってこなかったことを後悔したり、夏の入り口なのかわからないこの季節。
狙っているオシャレ長靴はあるのだが、もうすぐ夏が来て出番がなくなることを考えるといまいち踏み切れない。安い長靴を買ったら、それなりの品質と見栄えだった。安物買いの銭失いとはまさしくこのことかとうなだれたのはつい先日の出来事。
結局、多少値が張っても自分が気に入ったものを買うことが一番お得である。一体いつになったら気がつくのやらと懲りない自分にガックリきていたら、上司から連絡が入った。

その人は会社を辞めることにしたらしい。

何となくそんな気はしていた。
上司から退職のことを知らされた時は、安い長靴を買ったことがどうでも良くなるぐらいうなだれた。

といっても直属の先輩や後輩ではなく、実は実際会ったこともないのだ。
やりとりはここ半年だし、メールか電話のみ。
顔も見たことない人だったが、何度助けられたことか。

少し前のコロナ禍前なら遠く離れた誰かと親密に仕事することなんて考えられなかった。袖振り合うも他生の縁というが、袖を振ったこともない遠く離れた誰かの退職をここまで悲しく思うこともなかったのに。
世の中も変わってしまったが、私たちの常識も変わってしまった。

貝がたまたま外から取り込んだ小石で真珠を作るように、あの人の仕事の仕方を取り込んで信頼してもらえるような仕事が出来るだろうか。

カラッと晴れた暑い夏空の下を歩いたら、少しは気が晴れるかもしれない。
でも今はまだ、どんより重い今にも泣き出しそうな空のようにただただ、悲しい。

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