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こころの中にあるごろっとした正体不明のあいつ【7つの詩の音色】

1 心同体

あいつは大きくなったり
小さくなったりする

小さいときは
ほとんど見えないけれど
でも確かに存在しているようだ

大きくなるときは
存在を確認した瞬間
瞬く間に肥大し 
拡張していく

あいつから逃げようとしても
どうやらダメらしい
あいつには包み込んであげる
やさしさが必要らしい

それでも
ぼくがいるからあいつがいるし
あいつがいてこそぼくになれる



2 

恋をすると
あいつは姿をくらます
きれいさっぱりどこかへ

でも恋の合間の
一人きりの夜
あいつはやってくるのだ

どうやら一人きりのようだね
だからやってきてあげたよ
そう言っているのだろうか

あいつを抱きしめる夜っていうのも
悪くないのかもしれない
一人きりよりは
よっぽど



3 飛

ざらついたギターの音色を聴いていたら
あいつは飛散していった
ごろっとしていたあいつのはずなのに
ふわりと空高く舞い上がっていった

そのとき 
ぼくはやさしい気持ちだった



4 グナル

ごろっとしたあいつは放っておくと
騒ぎ出す性質を持っているらしい

それでもぼくはすぐ
存在を忘れてしまうので
気づいたらギャーギャー騒ぎ出しているのが常

そうなってからではもう遅いのだけど
そうでないと気づかないものなのだ

それでも見て見ぬ振りをし続けていると
ずんと重くなって身動きが取れなくなる

手遅れになる前に
少しずつかもしれないけれど
気づいてあげたい



5 

あいつに勝とうとすると
それ以上のパワーで
ねじ伏せてくる

勝負をする前から
主導権はあいつにあるから
あいつは常に優勢

だから勝負を捨てる
あいつに勝とうとしない
勝負を捨ててはじめて
あいつと互角に向き合える



6 

あいつの正体は
「本当の気持ち」を知らせる
いいやつなのかもしれない

本当はこうしたかった

気づいてあげられなかった
叶わなかった小さな気持ちが

時が経っていくにつれ
少しずつ大きくなって
ごろっとしたあいつに変わる

あいつは何を訴えかけているのだろう
本当の気持ちをあいつから教わってみよう



7 色の彩り

ぼくだけなのかな
あいつを持っているのは

ごろっとしたあいつは
そのときどきで
こころの奥や
こころの端や
こころの真ん中に
我が物顔で鎮座している

あいつのおかげで
不安でいっぱいになったり
憂鬱の波におそわれたり
するのだけど

あいつのおかげで
空が澄み渡る鮮やかさや
旋律が呼応する煌めきや
風が運んでくれる薫りを
こころの深くまで
染み入るように
感じられるのかもしれない

だからぼくはあいつが嫌いじゃない
むしろあいつがいてくれてよかったと思っている

どうやら

さよならの時がきたようだ
あいつがいてくれてよかったと思えた瞬間
あいつの方から
そっぽを向いて立ち去っていった
さよならも言わぬまま

きっと
ずっと
ぼくのこころを守ってくれていたのだろう

そのことにやっと気づけたよ
ありがとう
さよなら



0 エピーグ

こころの中にある
ごろっとした正体不明のあいつの名は
「絶望」という

またいつかやってくるだろうか
そのときは涙といっしょに踊ろうか


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