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あと37秒早く呼吸をしていたならどんな世界を生きれただろう。映画『37セカンズ』

邦画、洋画どっちが好き?
というのは映画好きには愚問かもしれません。

わたしは80年代、90年代あたりは洋画が好きですが、基本的には邦画がしっくり来る感じがします。
邦画特有の狭い日常をリアルな台詞回しで切り取ったような物語や、大の大人がわちゃちゃするようなお話や、純粋な青春映画も好きです。

今回取り上げる『37セカンズ』は、先日の忘年会でアジアンビューティなお姉さんからおすすめ頂いた邦画です。


以下ネタバレあります!




車椅子の女性が主人公の映画といえば『ジョゼと虎と魚たち』をどうしても思い浮かべてしまう。

ジョゼもかなりの強気で聡明な女性だったが、こちらのユマもなかなかの行動派。

主人公のユマは産まれる際、37秒間の呼吸ができなかったために手足に麻痺が残ることになり、車椅子で生活をしています。

生活のほとんどのことは自分でできますが、入浴など一部は母親に手伝ってもらっています。

ユマには漫画を描く才能と実力があり、タブレットを使って漫画家としての仕事をしていますが、それはユーチューバー兼自称漫画家の親友のゴーストライターとしてでした。
(編集担当にはアシスタントと紹介されています)

親友は悲しいかなユマのことを良いカモだと思っているようです。
ユマは自身の漫画を認められようと、自分なりに編集担当に漫画を見せますが「アシスタントだと作風が似ちゃうよね」とあっさりボツにされたりとなかなか前途多難な人生を送っている模様です。

ユマの母親(自宅で人形やらなにやら作って生計を立てている?)はシングルマザーで良い母親だけれども過干渉。
ユマの手元には一枚の絵葉書があり、父とのつながりはその葉書だけ。いまは生きているかどうかもわからない状態です。

ある時ユマは道端に捨ててあったエロ雑誌を拾い、閃きます。
SF風のちょいエロ漫画を描き、出版社とアポを取って漫画を見てもらうユマ。

女性の編集長は「漫画自体は悪くないけど……」のあとに「あんた男と寝たことある?(婉曲表現)」とユマに問い、当然男性経験のないユマは首を振ります。

男と寝たらまたおいで、と追い払われるユマ。
まあ、エロ雑誌だからね。リアリティがないとダメよ、と振られてしまうわけです。

女性編集長の言葉をきっかけにユマは夜の街に繰り出します。
エロ道具を購入したりエロ動画を見て漫画の参考にしたり、挙句の果てに男を買ったり。
(結果は失敗に終わります)

ユマの母親や親友がだんだんとユマにとっては息苦しい存在になるのに対し、夜の街の店を紹介する男や年上の娼婦の女、エロ雑誌の編集長は優しい、というかユマをひとりの人間として扱っているように見えました。

深夜の繁華街の雑居ビルでエレベーターが壊れて車椅子で降りれずユマが困惑するシーンがあります。
とある理由でタイに渡航するのですが、現地の人々がみんなで車椅子を持ちあげて運ぶシーンと雑居ビルの対比が素晴らしかったです。(数秒のシーンでしたが良いシーンでした)

ユマは身体に麻痺こそあれ、仕事はできるし行動力もあるし、何より親友が自分を利用していることを薄々気付いているはずなのに彼女を陥れたりしない優しさがあります。

こんなにも聡明なユマならば、付き人なんていなくてもひとりでタイまで行けたのでは?と感じてしまうほどでした。
(さすがに女性の一人旅は無謀か?タイはそんなに道も舗装されてないか…)

付き人を添わせる理由はタイトルでもある「37セカンズ」の理由を吐露させるためと、もうひとつ決意の言葉を吐かせるためなんだろうけど、付き人がなんだか物語を回すための道具に見えてしまったのはわたしだけでしょうか。

しかし安易に付き人とのラブストーリーに終わらせたり、付き人と「致して」編集長に「わたし、ヤッてきました!だから漫画載せてください!」とかの流れにならなくて本当によかった。

この映画は何よりユマを演じた桂山明さんの無垢でまっすぐな瞳が成功に導いたと感じます。

あのとき37秒早く呼吸できなかったからといって、ユマは不幸にはならない。
ユマはこれから自分自身の手で幸せを掴むことができる。
そう確信を持たせてくれる前向きな映画でした。観て良かった。 
(挿入歌のCHAIサイコー!)

※すみませんリスクヘッジさせてください。
こちらの映画は一回のみ視聴した感想です。
解釈間違いなどありましたら目を瞑っていただけると嬉しいです。


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