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ファンをつくる力〜デジタルで仕組み化できる 2年で25倍増の顧客分析マーケティング 書籍のご紹介

今回は、Bクラブの中でも躍進著しい川崎ブレイブサンダース(以下、川崎)の成長をマーケティング領域の責任者として牽引してきた藤掛直人氏(以下、藤掛さん)の書籍のご紹介をさせていただきます。藤掛さんから直接お手紙付きで献本いただいたことで書籍を拝読させていただく機会をいただきました。

重要なポイントは、献本+手紙、感想を伺えますと幸いですとメッセージ付きだったということです。これはさりげなく素晴らしいアプローチなのです。(読まないわけにはいかない 笑)藤掛さんとお付き合いは、2018年2月に川崎の元沢社長と当時千葉ジェッツの社長だった私にクラブ経営のアドバイスを求めてオフィスに来ていただいたくらいだと記憶しています。

藤掛さんには、拝受の御礼と拝読して感想をnoteで記すこと島田のマイクでも話すことを約束するメールを送らせていただいたことからの有言実行noteとなります。CSのセミファイナルの忙しい中でしたが、即レスで返事がありました。これまた素晴らしい。この流れから書籍を読まなくとも中身は濃いんだろうなぁと確信して、拝読させていただきました。

前置きが長くなりましたが、拝読させていただいて、私自身、本当に勉強になりました。スポーツ界でもデータの利活用やデジタルマーケティングは注目されていますが、ここまでしっかり専門スキルをお持ちで、しっかり取り組んで、結果を出しているところはそうはないのではないでしょうか。ぜひ、各Bリーグのクラブの関係者も読んでいただきたいですし、参考にすべき一冊だと思いますので推薦とともに少しばかりご紹介したいと思います。

まず、川崎のYouTubeチャンネル登録者数10万人突破(Jリーグ・Bリーグあわせて1位)、TikTokフォロワー数10万人突破(日本のスポーツ界で読売ジャイアンツに次ぐ2位)、DeNA承継前の1試合平均来場者数は、Bリーグ7位から3年で1位まで急上昇しております。まず、これが結論です。この状況を作り上げた打ち手の一部がこの書籍の内容になります。

川崎は、ファンを増やすことが出来た結果、チケット売上やスポンサー売上の事業成績につながり、チームの勝利にも結びついていると思います。

どんなに良い製品、サービスも知ってもらう努力をしなくては売れない。ファンを増やそうにも、ファンの定義が曖昧では打ち手も定まらない。藤掛さんは、「ブランドやプロダクトの個性を支持し、意識的にリピートし続けてくれる人」と明確に定義しています。この決めは、入り口として非常に重要だと思います。

では、どのようにファンを作ってきたのでしょうか??ファン作りのプロセスは、①個性の定義と体現、②体験価値の最大化、③体験人数の増加としています。

DeNAという立派な親会社頼みからの脱却、しっかりクラブ運営として事業採算をとるということを大事にしています。一般的企業同様に、バスケという商品・サービスで存続させようとしている志と行動が伴っているのが素晴らしいと思います。このあたりは超重要で、親会社から当たり前のように生活費の支援を受けるのがあたりまえになっては企業努力は生まれません

このことをレストランが売り上げのアップのために自店舗で暴食することはない、運営主体が開発した広告商品を自ら買うというのは本来不自然、という表現で説明しています。まさに、一般企業では行われないことです。

プロスポーツクラブとして永続的に価値を提供していくには、収益を得られる仕組みをきちんと作り、利益を投資に回し、提供できる価値を更に高めていくことが必要です、とありました。激しく同意ですし、このあたりまえの正しいプロセスでファンの皆様を魅了していこうとする覚悟を感じました。

来場者数を増やすことが、私達のキードライバーであります。そのためには、リピート率、新規顧客数、キャパシティーが重要で数値と確率を上げるために、データやデジタルを利活用してPDCAを回すことの重要性を説いています。

しかし、正しい着眼だなと感じたのは、真のキードライバーは、ファン数であると考えていることです。来場者だけではなく、SNSが発達した現在は、YouTubeや Instagramなど、見ていいねや商品を買おうとした時、スポンサー企業の商品を手にとるなど、これらの方々、全てクラブにとって大切な存在のファンの内数で、ファン数には上限はないという思想です。

ファンの重要性は売り上げ観点だけではない、ファンを作る仕組みを作れば、ファンがファンを生むことも可能でファンの皆様の中の一部が来場者だというのが、この書籍の重要なメッセージかなと思います。

また、ファンを作るには、個性の定義が大切で個性のないものには、ファンは決して生まれないと説いています。激しく同意で、私はこのあたりをクラブのキャラという表現をしています。

川崎は、事業面を「EXCITING BASKET PARK」チーム面 を「BE BRAVE」と個性を設定しています。私はこのあたりを理念やクラブスタンスなどと表現していたのでここから始めることは、理にかなっていると感じました。

次に、データとデジタル活用の前にデータ収集となりますが、目的を持って集めないと意味がない。そのデータを知って、何になるの?と常に自問自答されているとのこと。なんとなくデータが集まれば何かいいことあるのではないかは完全に幻想だとしています。

IT、ゲーム業界は常にデータを取り、顧客体験レベルを上げるべく努力しています。スポーツ界のデータの少なさ、重要性の認識の低さに最初は戸惑いを隠せなかったとも回想していました。

チケット販売チャネルも複数ある中で、他の販売チャネルに慣れているお客様を失うかもしれないリスクとってもBリーグチケットへ一本化して、データを集めて顧客体験をあげていくという経営判断をしたそうです。

価格についてもあらかじめ需要と供給に応じて価格を変動させるフレックスプライスから取り組み、販売状況や天気などで変動するダイナミックプライシングを活用して顧客ニーズにこたえる挑戦をしています。

様々なデータを駆使して顧客動向を把握して打ち手を決めているのですが、さらに3つのアンケートでデータを補完しているそうです。
①試合直後のアンケート
②新規来場者アンケート
③年次アンケート
体験価値を上げることに本気であることがわかります。例えば、アンケート結果からある場所が暗いとなれば、ライティングをする。音響がうるさいという意見があればイヤーマフの貸し出しをするなど。可能な限り、アンケートから得られる情報でファンに寄り添い、改善していこうとする姿勢が素晴らしいなと思いました。

私もクラブ経営時代は、アンケートや直接いただいた声に対して対処できることはすぐに動く、ということを大切にしていたので共感します。情報を集めるだけで何も変わらないなら、集めない方が良いと思います。逆にポジティブに変わることが増えてくると、ファンとの信頼関係もぐんぐん上がるというメリットがあると思います。

驚いたのはデプスインタビューを行っていること。ファンと1 on 1で行うというのは効率悪くなかなか難易度が高い。しかし、複数で効率を重視すると他の意見に引っ張られて本音を把握することができないリスクが考えられます。データやデジタルというとかなり事務的な印象を受けると思いますが、川崎の徹底して手間暇かけても顧客ニーズを得ようとする試みと行動には頭が下がります。

コアファンや新規ファンなど顧客体験に対する満足度は異なるわけです。この業界はどちらかというとあるターゲットを決めてサービスを構築していくことが多いと思いますが、顧客セグメントごとに体験をデザインするという挑戦に感動しました。IT、ゲーム業界で培ったノウハウなんでしょうが、出来る限り細かくお客さまのゾーンを細分化して多くのファンの皆様に楽しんでいただけるように努力している仕組みが凄い。これも必要なデータを的確に収集、分析しているからだと思います。

このデータから、推しの選手が出来たこととリピート率の相関性があることがわかり、選手の特徴を知ってもらうために選手紹介のショートムービーにキャッチフレーズを入れたり、バスケに詳しい友人ときたご来場者は、その後のリピート率は高いということがわかりました。おそらく、ルール、面白ポイントを説明してもらえるからでしょう。そうなると会場ビジョンにルール説明を映し出す工夫を凝らしたりしているようです。

また、データで見えてきた弱い商品は付加価値で補うということも徹底していました。

YouTubeの集客効果は高く、初購入者がチケット購入前にみた媒体の53%という結果だったそうです。とにかく、新規ファンを増やすための施策をたくさん実施していますが、YouTubeが初来場のきっかけとして力を発揮していることが凄すぎます。いかにライト層に対してリーチ出来ているかがわかります。軸はバスケに置きながらも選手たちも楽しみながら出演する、私も見ていますが、川崎のYouTubeは面白いですよね。

デジタル施策は、目的と役割が全て、認知→興味→来場促進→観戦→感想共有→コミュニティ形成というお客様の体験サイクルがあると明示されていました。川崎は認知でTikTok、興味でYouTube、来場促進でLINE、観戦でNFT、感想共有でTwitterとInstagram、コミュニティ形成でオンラインサロンを活用しています。緻密にお客様が喜んでいただけるようデジタルを最大限活用していることがわかりました。漠然と似たような感覚でやっているところは多々あるでしょうが、戦略的に徹底しているところは少ないのではないかと思います。

最後に、改めてデータ、デジタルを目的を持って正しく活用できる人材としての藤掛さんがいかに優秀かはよくわかりました。データを集めるにしても、活用することにもエネルギーかかるし、リアルとの接続の中で汗もかき、YouTube企画等の実現にも熱く交渉したり、何よりもやり抜くタフさも持ち合わせていることが川崎の成功の秘訣かなと思います。デジタルを活かすも殺すも生身の人間ですからね。

結論として、ファンため、ファンを増やすために、ファンに寄り添いながらやり切っている川崎が、短期間で劇的に生まれ変わったのも頷けます。

素晴らしい学びの一冊となりました。川崎さん、藤掛さん、ありがとうございました。私がふれた箇所はほんの一部です。ぜひ、ご興味のわいた方はご一読くださいませ。


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