父親、そして父親の父親 村上春樹『猫を棄てる』感想文

父親の父親、すなわち父方の祖父のお墓の中にはお骨が入っていないと知ったのは、かなり大きくなってからのこと。結婚前だっただろうか。

父方の祖父は第二次世界大戦で南方のジャワ島へ出征し、上陸途中で海の中へ消えてしまったと。お骨が帰る事もなく夫は戦死と知らされた当時の祖母のお腹の中には、父親の弟がいたという。

その後時は経ち、父の兄と姉がジャワ島へ行き、海岸の砂を持ち帰り、祖父のお墓の中に入れたそうだ。

お骨の無いお墓とは知らず、幼い頃から毎年お盆にはお参りに行った。お墓参りより祖母の作る白玉だんごを食べられることが楽しみだった呑気な幼少期の自分であった…

一方、母方の祖父とは一緒に暮らしており(父は養子)、戦争については、戦地には赴かず、出征前の兵士に対して教官のような事をしていたと聞かされた気がする。

戦時中の同時期に一方は南方の海へ沈み、一方は戦地にも行かず戦死することもなく、戦後は普通の暮らしをし寿命が尽きるまで生きた。歳の変わらぬ男性2人、当時の運命の巡り合わせで人の人生はこんなにも違うのかと思い知らされる。

村上春樹さんのお父様も戦争が勃発した時期に大学生でありながら出征しなければならない年齢であったゆえ、大変な思いをされた。戦後、毎晩寝る前に亡き戦友を想い読経を欠かさなかった、欠かさずにはいられなかった過酷な状況であった。それでも生きて帰ってこられて大学に復学し、卒業後は教員となられ、結婚し新しい命を紡いでいかれ、紡がれた命が村上春樹さんであり、こうやって私は読者として村上春樹さんを知ることが出来た。何かがひとつ違う道を辿ったなら今この瞬間はない。

自分が生きているのではなく、偶然が繋いできた『いのち』を生きさせてもらっているのだなと思う。

ワタシのいのちを繋いでくれた父はもう亡くなってしまった。父は自分の父親と一緒にいられた時間は少なかったと思う。まだ小学生だったのではないだろうか。あちらで祖父と出会ってくれていればいいなと思う。そして一度も会ったこと話したことのない父親の父親に私もいつか天上で会いたいと思う。

#猫を棄てる感想文

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