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短歌

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2020年2月の記事一覧

ひとつの遊び

ひとつの遊び

いのちの順番を数える口唇が行列の先の先の先の先の
順番を並べ違える大母の悲しみの腑分け海への遡源
誤読するような月夜の皿の上の魂はときに名前をもたない
道の罪を頭蓋を押さえトリガーへ指を差し入れ塔が崩れる
譲歩され整えられる距離にだけ道はあなたの添付を許す
水だけで大丈夫ですの触れ込みを連れ帰っては名前をつける
咳をする投薬をする瞬きのその度いつも小石を投げる
長靴のひとは言葉

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かいわれの花

かいわれの花

曇り日に見覚えがあって眼で辿る向かいに置かれた赤いケースを
斜め前に出迎えているわたくしを遮る仕掛けの誰かの人かげ
二回目の海道を渡り橋桁のひかりのすがたに招かれていた
鳥 二回目という海道のその先の雫(しずく)のような大人に会いに
ちぎられたパンのふたつの過不足をひとりと過ごす穂のような 鳥
拭えない 湾曲をする橋と橋を繋いでみても闇をとぶ鳥
鳥 磔の木の正直な直線と途切れる

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短歌的実験(7)

短歌的実験(7)

駅員も椅子職人も永遠をつくりはしない、ましてや詩人も
妻は捏ねて捏ねて捏ねて子をつくりサラマンダー(火)に焚べてはきれい
心臓が迫害される冷え切った部屋で蜥蜴のままで寝返る
映写機の父はひかりに動きだすきりぎりすきりぎりす切り偽りス
他所の家の匂いの犬について行く転がる柚子に母性は宿り
重なったときのあなたのあこがれに譲ろうとする影のかたちよ
畳への愛撫を遠い未来雨をわだつ

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ゆひ ゆき たや

ゆひ ゆき たや

ゆひ ふき たや 底翳の星にもたらした次頁の次頁の次頁の
腹のなかにトリチウムだけを温める孵化しなくても裂け目は叙事詩(エピック)
ガラス越しの点滅信号、論文を綴ればふいに詩は隆起する
からだに気孔は九つポエジィは微風や鳥と関係をもつ
またきみの後始末にすぎないけれど目隠しのつぎの林檎を剥いてる
白濁の眸を与えられている病葉の穴から妖精の距離へ
麦の穂の あひ あみ あえ 

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短歌的実験(6)

短歌的実験(6)

肌の服のままで闇夜を彷徨えばボッティチェッリの波音を聴く
石に滲む薔薇色の指が走りだす死人の口にコインを入れれば
だれよりも深く関わりあうひとの脂色(やにいろ)の肌に帆を張っている

*可能性とは、すでに過ぎてしまったことを後ろ向きに見直すことによって形成されるだけのものなのである。だがそれは、流れる時間を、流れた後で、空洞化して捉えているにすぎない。
洲から洲へでき得るこ

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