見出し画像

わたしの本棚22夜~「望み」

 映画の先輩から、堤幸彦監督の最高傑作ではないだろうか、石田ゆり子の演技がいい、など聞いていたので、映画を先に観ました。主演の石田ゆり子×堤真一の迫真の演技、脇を固めた清原果耶、竜電太など素晴らしい演技で2時間、泣きながら見てしまいました。映画と小説は基本的には別の創作物(表現方法)と思っていますが、この作品、小説(原作)を読むと、映画が原作にとても忠実であったことがわかりました。小説は結末を知って読み始めましたが、それでも一気に読ませる文章で面白くて、内容が普遍的でもあり、人間というもの、家族というものの掘り下げ方が素晴らしかったです。

☆「望み」雫井脩介著(角川書店)1600円+税

 殺人事件に絡んだ息子が失踪。彼を待つ家族は息子が加害者であっても生きていることを望むのか。自分たちの未来のために被害者でいてくれることを望んでしまうのか。

 設定が上手いです。息子は被害者か加害者か、という究極の設定が描かれ、マスコミやネットの報道に翻弄される家族の心情、どの家族の言い分にもそれぞれの立場があるので共感できるものであり、それゆえ結末で、息子の生き方や性格がわかると一層涙してしまいました。

東京郊外に住む一登、貴代美夫婦。長男の規士はサッカーでケガをしたため、選手生命を絶たれ、高校生活を無為に過ごしかちで、遊び仲間と外泊したりしています。妹の雅は進学校を受験する中学3年生。

 規士が外泊し、連絡がとれなくなり、規士の仲の良かったサッカー部の友人がリンチの刺殺死体で見つかります。被害者の周辺、サッカー部で連絡がとれなくなているのは規士を含めて3人。事件に関与していると考えられる3人を追う警察やマスコミ。憶測の中傷記事が家族を苦しめます。

 一登は息子の無罪だけを信じ願い、雅は加害者の妹だと進学校の面接を受けられなくなると自分の未来を心配します。母親だけは、加害者であっても生きていてくれたらいい、と祈ります。小説の方は、映画であまり出てこなかった規士の彼女杏奈や一登の岐阜に住む兄のエピソードなどもあって、より重厚です。規士との関係のなかで、それぞれの「望み」が描かれていきます。

世間体を気にする夫を軽蔑したり励ましたり、「お母さんは私よりお兄ちゃんの方が好きなのよ」という雅をなだめる喜代美の望みは、ただ、息子が生きていてくれること。息子とともにどんな社会的制裁も受け止めると決めた母の動じない覚悟は神々しくさえありました。

 映画は映像と俳優さんの迫真の演技で2時間あまり、原作に忠実にまとめてあり、小説はさらに丁寧に心情や会話があるので余白があり、人間を掘り下げており、余韻の大きな作品となっています。

#望み #雫井脩介 #角川書店 #読書の秋2020 #堤幸彦 #石田ゆり子 #堤真一


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?