事業創出の原理原則6 自社分析-顧客提供価値の明確化

・事業の3要素の活用 : 「事業の3要素」と「顧客提供価値」を明確にするメリットは2点あります。①顧客に対して、自社のことを明確に分かりやすく説明することができます。例えは、初めて訪問する顧客に、「御社はどのようなビジネスをしているのですか?」と質問されることはよくあります。その時に分かりにくい説明をしたときには、多くの場合、顧客は取引相手としては不適だと判断します。②新しい事業展開を考える時の指標になります。どういうことかというと、新規事業を考える時に、従来のビジネスの、「事業の3要素」と「顧客提供価値」と関連のない新しいビジネスは、難易度も高く、失敗の可能性も高くなります。例えば、コロナの影響で飲食店は大変な状況になりましたが、対応として、「どのように」を店内での飲食だけでなくネットでの販売や、「お弁当」の販売も始めました。以前、ウオーターサーバの販売では、多くのプロパンガスの販売会社が始めました。「どこへ」と「どのように」は同じで、「何を」に「水」を加えました。研修ビジネスは、従来はどこの研修会社もほぼ100%集合研修でしたが、「どのように」でリモート研修も追加しています。「事業の3要素」と「顧客提供価値」と関連性のないビジネスを「飛び地のビジネス」と表現されることが有りますが、そうしたビジネスの多くは、早い時期に撤退しています。例えば、バブルのころには、多くの企業が「多角化経営」の名のもとで「ゴルフ場ビジネス」に参入し、その後、不良債権を作り撤退しています。例えば、ユニクロは一時期「野菜の販売」のビジネスを立ち上げました。経営理念では「服」が中心なのにと思っていましたが、早期に撤退しました。勝手な想像ですが「柳井社長」は失敗しても良いと考えていたと思います。失敗から何か学んでくれれば良いと考えていたから許可したのでしょう。その証拠に「野菜販売」の責任者が、26億円の大赤字を出して退職届を出したときに、柳井社長は「会社に損害を与えたまま辞めてもらっては困る。」と言って受け取りませんでした。その人は今「GUの柚木治社長」です。高い授業料でしたが、結果としては、安い授業料になっています。リクルートの出木場社長も「失敗しないことはチャレンジしないことだから良くない。」と言っています。
 
・顧客提供価値を決める : 企業は、何らかの「顧客提供価値」を生み出すことで事業が継続できます。「顧客提供価値」というと、商品やサービスを連想しがちですが、その商品やサービスを使うことでもたらされる顧客の利便性や満足感です。企業は「顧客提供価値」を明確にしておいた方が、経営方針が明確になり、全社員の活動のベクトルが統一されます。同じような業種でも、異なる「顧客提供価値」を生み出しています。例えば、①スターバックス②銀座ルノアールも、喫茶店(カフェ)です。企業理念は、①スターバックスは、「人々の心を豊かで活力あるものに。ひとりのお客様、いっぱいのコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」です。②銀座ルノアールは、「一杯のコーヒーを通して、お客様にくつろぎと安らぎを感じていただけるホスピタリティサービスを提供する」です。内容は、それほどの違いは感じませんが、ユーザーの立場では、①スターバックスは、少し時間が空いたので、リラックスしたいとき、外出の時にパソコンで仕事をしたいときに使います。②銀座ルノアールは、人と打ち合わせの時に使います。どちらも「基本的提供価値」は「おいしいコーヒー」ですが、私が思う①スターバックスの機能的付加価値は「WiFiが使える。電源がある。デスクとして使えるスペース」。情緒的付加価値は、「オシャレな雰囲気」です。②銀座ルノアールの機能的付加価値は「ゆったりと座れるソファーとスペース。複写機や会議室もある」。情緒的付加価値は、「ホテルのロビーのような豪華で落ち着いた雰囲気」です。どちらの喫茶店も「おいしいコーヒー」を提供しているだけでは、今の発展はありません。
 「顧客提供価値」は、企業理念や自社のビジネスをどう定義するかとも密接に関連しています。例えば、コロナが蔓延していた頃、マスコミは、①Uber Eatsと②出前館が注目されていました。どちらも「料理の配達サービス」ですが、当時のトップはインタビューで、①Uber Eatsは「マッチング・アプリの会社です。」②出前館は「出前代行の会社です。」と言っていました。①Uber Eatsは、プラットフォームビジネスであり、②出前館は、サービスビジネスと定義していると思いました。ですから「顧客提供価値」の強化ポイントは、①Uber Eatsは、アプリケーションやシステムなどの使いやすさの強化。②出前館は、サービス力などの顧客対応力の強化になると思います。ユーザーからは、同じような業種に見えますが、方向性は違っています。
どんな事業でも、「顧客提供価値」がないビジネスは、顧客の支持が得られず継続性はありません。新規事業でも事業拡大でも、「顧客提供価値」を明確にする作業は、企業の方向性を決めるために必要です。事業を考える時に、事業の3要素から、「顧客提供価値」を考えるアプローチ方法もありますが、それよりもむしろ「顧客提供価値」から事業の3要素を考える方法もあります、新規事業を考える時には、「顧客提供価値」から考える方が、よいアプローチ方法だと考えています。

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