空気を読まない女たち/二兎社「私たちは何も知らない」

二兎社公演43
「私たちは何も知らない」
東京公演(2019/11/29〜12/22)

於:東京芸術劇場 シアターウエスト
作・演出 :永井愛
出演: 朝倉あき、藤野涼子、大西礼芳、夏子、富山えり子、須藤蓮、枝元萌

あらすじ ※公式サイトより
平塚らいてうを中心とする「新しい女たち」の手で編集・執筆され、女性の覚醒を目指した『青鞜』は、創刊当初は世の中から歓迎され、らいてうは「スター」のような存在となる。しかし、彼女たちが家父長制的な家制度に反抗し、男性と対等の権利を主張するようになると、逆風やバッシングが激しくなっていく。やがて編集部内部でも様々な軋轢が起こり─

別会場で見ようとチケットを取っていたのに、DVDの先行販売につられてのこのこ来てしまいました、池袋。プレイハウスは時々くるけど、シアターウエストは初めて。ロビーはコンパクトだけど、コインの戻るロッカーもあるし、劇場前が吹き抜けでひらけていて椅子もたくさんあって有り難い。

キャストは女性ばかり(青鞜編集部だからね)の中に平塚の若い恋人役で須藤蓮さんが黒一点。チャイメリカにも出ていた富山えり子さん、初舞台の藤野涼子ちゃんなど、楽しみな顔ぶれ。前評判も良くて期待大。

幕開けいきなりのラップ、よく聞けば平塚らいてうのあの有名な…と思った時点でもうすっかり永井さんの世界。そこからあっという間の2時間半でした。

朝倉あき演じる平塚明(らいてう)がただただ眩しかった。なんだろう、この鮮やかさは。誰もが惹かれ、憧れ、集まってくる、その中心に彼女がいる。この説得力はどうだろう。夢を語る彼女の姿があまりにも清々しくて、それだけでもう十分だった。清冽なカリスマ、平塚らいてう。

富山えり子の保持研が出色。生き生きと、嫌味なく、それでいて強烈!見ているだけで楽しい。大西礼芳演じる岩野清の硬質な理想論者という感じもすごくいい。すっきりとした中にも工夫のある舞台装置も芝居によくあっている。

青鞜編集部の女性たちは誰もが自分の言葉で話す。自分の意見を言うことをためらわない。それって凄いことだと思うのだ。意見を戦わせて、時に対立しながらもお互いを尊重する彼女らの姿は、わかでなくとも飛び跳ねてしまうほど嬉しい素敵な光景だ。だってそうではないか、今だって私たちはどれだけの同調圧力に屈して、どれだけの頻度で口を開く前に諦めてきたことか。目的を同じにするはずの集団の中にあってさえ、異なった意見を口にして場の空気を乱すのを過度に怖れてしまうのだ。この女達はよい意味で空気を読まない。意見の相違に臆さない。それが私にはとても眩しい。

特に明と清の関係がいい。あなたはそこに留まってはいけないと、強く明の背中を押す、清の別れ際の高らかな台詞にぐっとくる。それはすぐには彼女を変えなくとも、いずれ明を押す大きな力になる。

このお芝居では戦時下の彼らの姿も描かれている。しかしそれは恐ろしい強大な力にのまれていく個人の姿で、彼らの変節を糾弾するものではない。翻弄され、言説を曲げたようにみえる彼らの姿に、戦争という暴力的な装置の恐ろしさを知る。

道を違えてバラバラになってしまっても、意見を戦わせ共に歩んだ日々が色褪せるものではない。後半、青鞜が解体していくくだりでは、もどかしく苦しいシーンが続くけれども、見終わった感覚は爽快で、爽やかな明の姿は損なわれることはなかった。

観に来てよかったと思える、実に爽快な気持ちのいい舞台だった。


ところで劇中、奥村が自らを「若い燕」になぞらえるシーンがあるが、年下の恋人のことを若い燕、というのは奥村博史が由来らしい。知らなかったなぁ。

この日は、アフタートークがついていました。登壇者は永井愛さんと、新聞記者の望月衣塑子さん。「ザ・空気 ver.2」のDVDを買ったその日に、望月さんのお話が聞けるなんて!まんま「ザ・空気」ではないの。なんたる幸運。「i 新聞記者ドキュメント」もものすごく面白かったし、めぐり合わせに感謝しつつワクワクして参加。興味深いお話が聞けて大満足でした。「ザ・空気 ver.3」にも期待大。再来年も楽しみです。

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