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青い傘を広げたい。

傘が曲がっている。

一点にちからがかかってグニャっと曲がっているのではなく、全体的にしんなりと曲がっている。金属の軸が曲がるほどのちからをかけた記憶はない。よりかかったり、杖のようにつかった記憶もない。いったいいつ曲がったんだろう。

雨の日にさす分にはまったく困らないくらいの、曲がりぐあい。しかし、気にならないかと言ったらウソになるくらいの、曲がりぐあい。これを機に、傘を買い換えようかなあという気持ちが芽生える。

しかし、傘ならなんでもいい、というわけではない。今の傘を買った時は、シンプルなものがいいな程度の理由で無印良品で買った。言ってしまえば、なんでもよかった。だが、いまはちがう。

雨の日に、ひそかな夢ができた。夢というほどおおげさなものではないが、やってみたいことがある。

青い空が見えぬ日に、青い傘広げてみたいのだ。


つまり、青い傘がほしい。スカッと気持ちが晴れる青空のような、青い色の傘がほしい。

お気づきの方も多いと思うが、これは宇多田ヒカルの曲の一節。

青い空が見えぬなら青い傘広げて

「COLORS」宇多田ヒカル

突き抜ける爽快なサビ。曲調が気持ちいいのはいわずもがな、ここで本当に青い傘広げたら気持ちいいのでは?と思うのだ。どんよりとした雲がかかる空に、パッと開く青い傘。想像しただけでも、ちょっと爽やか。それをやってみたいのである。

雨の日は、やはりどこか気分が落ちる。靴が濡れるなあとか、傘が荷物になるなあとか考えてしまうと、外に出るのが億劫になる。

パッと傘を開く。ただそれだけでブルーな気持ちが少しでもやわらいだら、雨をよけるためだけの道具だった傘が、気持ちをあげるアイテムになる。なんだか少しワクワクする。

道具が気持ちに影響をおよぼすようになると、それは強力なアイテムになる。自分を保ち、自分を守る。そして、そんなアイテムを多く持つ人は、魅力的だし、強い人だ。道具にこだわりがある人は、カッコつけているわけではない。自分が常に楽しくいるためのアイテムとして、お気に入りの道具で自分を囲むのだ。

これまで傘は盲点だった。筆記用具やかばんなど、ほぼ毎日使うものは、気分が上がるもので囲ってきた。でも傘は、雨の日にしか使わないし、突然雨に降られたからと買ったものばかりだった。ただでさえ気持ちが落ちる雨の日なのだ。傘こそ、自分の気持ちが上がるものにしたい。


しかし、曲がってしまった傘も、長年雨の日を一緒に歩いた仲である。そう簡単には手放せないのが本音だ。これだ!もうこれ以外ない!と思う青い傘が見つかるまで、もう少し一緒に、雨の日を歩いてもらおうと思う。


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