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クリス・バシットの2019年の投球について

こんにちは。今回は久しぶりに分析系のnoteを。

テーマに扱うのは、A'sの先発投手クリス・バシット。
以前にもnoteでブレイクの要因について書いたが、今回はその強化版、続編といった形である。


バシットの'19年シーズンを軽くおさらい

クリス・バシットにとって2019年はキャリアの転換点だった。

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自己最多の登板機会を得て、防御率3点台で三振もイニング並に奪う、立派な成績を残した。
シーズン終盤まで離脱せず投げ続けた貢献も大きく、まさしく才能を開花させたブレイクアウトイヤーだった。

とはいえ、30歳でマイナーとメジャーを行ったり来たりする投手だったバシットが急にブレイクした要因は何なのか。
今回はそこを考えていく。


ポップフライを打たせる

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バシットが2019年と以前で大きく変わった点には、ポップアップ打球が増えたという点が挙げられる。
FanGraphsのIFFB%(内野フライ率)では、140イニング以上投げた投手の中で、MLB全体3位の好成績を収めている。

ポップフライ(=ポップアップ)が増え、結果的にラインドライブの打球を減らすことができたのはバシットにとってかなりプラスに働いたはずだ。

フライとラインドライブが減れば、それだけバレル性の打球やホームランを食らう危険性も低くなる
そしてポップフライは99%アウトにできる、三振に次ぐ安全なアウトの取り方である。ましてやファールエリアがMLBで一番広いオークランドなら尚更有効な手段だろう。


では、ポップアップ打球が増えることになった要因は何なのかというと、それは投球を高めに集めていることにあるのではないだろうか。

前回の記事でも書いたが、バシットは4シーム&シンカーの高めへの投球を増やしていた。
それだけでなく、変化球でも同様だったようだ。

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使用割合を増やした4シーム、チェンジアップはもちろん、目を引くのがカッター(スライダー含む)の高めへの投球割合である。

このカッター/スライダーを高めに投じた20.5%という割合は、MLB全体2位というMLB全体で見ても高い数値だ。

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(カッター/スライダーのストライクゾーン高めへの投球割合、10対戦以上)

その効果か、2019年のバシットは高めでポップフライを打たせる回数が増えている(上が18年、下が19年)

18バシットPU

バシットポップアップ

ちなみにA'sはチーム全体としても、高めにカッター/スライダーを投じた割合で2位を記録している(1位はTB)。ただ高めに速球(4シーム/2シーム/シンカー)を投じた割合では20位に過ぎず、高めにカッター/スライダーなどの変化球を投じる何らかの背景があるのかもしれない。



ファストボールの改良

バシットが決め球に使っているファストボールも進境著しい球種だ。

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シーズンの前半戦から後半戦にかけて、かなりスタッツが好転していることがわかる。

好転した理由は何なのかという所だが、実は前半戦と後半戦で変化量とリリースポイントにも変化が見られた。


(1番目が前半戦、2番目が後半戦。それぞれ上段が4シーム、下段がシンカーを示している。"H"が横軸で横の変化、"V"は縦軸で縦の変化を表すぐらいのイメージで)

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このように横変化の量が4シーム・シンカー共にマイナス側に変化しており、前半戦から後半戦でよりシュートするようになっていることが分かる。また、リリースポイントも若干だが下がっている。

これに対しては、「2ストライク時でギアを上げたファストボールを投げ込む回数が増え(リリーフ登板が増えたのもあった)、その力みがリリースポイントを下げ、よりシュートするようになったのではないか」という仮説を立てたい。


まず、バシットは前半戦に比べ、後半戦では2ストライク時の決め球にファストボールを多く投げるようになっている。(左が前半戦、右が後半戦)

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これが顕著に現れたのが8/11のCWS戦である。
7個の三振は全てファストボール、それも高めで奪っている。

ファストボールを投げる時、バシットの元々特徴的なフルエフォートの投球フォームは、追い込んで三振を奪いに行く力みで、若干リリースポイントが下がったのではないだろうか。

実はこの試合でファストボールを投じる時のリリースポイントは2019年の平均と比べて、低くなっていた。また横軸でもより頭に近い位置で放すようになっていた。(リンクはbaseball savantのサーチの所)

リリースポイント (縦, 横)
8/11のバシット : 5.64,  -1.26
19年のバシット : 5.69, -1.34
(参)ジェイコブ・デグロム :  5.62, -1.23


さらに、シュートするようになったことについても、こういう数値が出ている。

Spin Axis 回転軸の変化(前半戦→後半戦)
4シーム : 212.59 → 215.96
シンカー : 234.33 → 237.64

(ここら辺の分野はまだまだ全然理解出来ていないので、ばーぼんさんのnote読み込んで勉強します。ここでの見方としては180°に近づけばカーショーのような縦ホップの速球というようなことでいいと思います。参照)

ここでは簡単に説明するが、回転軸は180°が綺麗な縦回転で、横に倒れて180°から離れるほど横の変化が大きくなる。
ここでは僅かながら軸が傾き、シュート成分が大きくなっていることを裏付けている。



リリースポイントが低い所から高めのゾーンへ、また変化量も大きくなったことで、バシットのファストボールは打者にとってはさらに打ちにくいボールになったのかもしれない。




バシットのこれからの課題 カッターとチェンジアップ

これまでバシットの良い点ばかりを取り上げてきたが、課題ももちろんある。
バシットの長所であるスローカーブとファストボールはさておき、バシットはそれ以外のレパートリーに苦しんでいる印象だ。

特にカッターは中途半端な球種で、縦変化に乏しく、かと言ってホップもせず、尚且つ88マイル程度で速くもない。
この中途半端さが災いして、カッターの被wOBAは.462とクリスチャン・イェリッチも青ざめるレベルで火ダルマ状態である。

カッターの改善の提案をするとするならば、アンソニー・デスクラファニが良いお手本になりそうだ。

バシットとデスクラファニは、シンカーの質・投球スタイル・リリースポイントやアングルなどという点で共通点が多いと思っている。

それにデスクラファニはスライダー含め、ファストボール2種類とカーブでバランス良く三振を奪えている点も優れている。
実はデスクラファニは18年までスライダー中心の投手で、今よりも遅くて変化量の大きいスライダーを投げていたが、19年からはスライダーを小型化・高速化することでカーブとの兼ね合いを図ってブレイクした。

バシットも変化の大きいブーメラン型よりも、カッター感覚で変化を大きくさせるスラッター型の方が、彼の本来の良さを打ち消さずに済むためフィットするのではないかと思う。


また、シーズン中にカッターを多投して炎上するバシットを見かねてベテランのマイク・ファイアーズとブレット・アンダーソンが「チェンジアップを多く投げろ」とアドバイスしたらしく、バシットはチェンジアップの割合を増やしている。

まだチェンジアップの真価が問われる時期は来ていないが、アウトが取れる球にするには、縦変化を大きくするなどの修正が必要だと思っている。


またこの手のタイプでは、全球種バランス良く投げ分けるリック・ポーセロやタナー・ロアークといったベテランも生き残っているので、そちら側に振れる可能性も有る。

最後に

実はバシットは、昨今の打球初速やスピンレートなどと言ったデータには親しみのないオールドスクール派だという(この投球フォームを見れば分かるだろと言っていた)

だから、CINでデスクラファニがドライブライン出身のカイル・ボディ投手コーチらと取り組んでいるであろう、プレイヤー・デベロップメントで投球が改善!といったことは起こらないかもしれないが、バシットが今後も成績を向上させてくれることを願うばかりだ。

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