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小林泰三を読もうじゃないか

 良い子のみんなー! こーんにーちはー!
 元気してるかな?

 悪い子のみんなも、こーんにーちはー!
 法に触れてないかな?

 元気のない良い子のみんなは、無理に元気を出す必用はないぞ。
 元気がないのは身体の調子が悪いサインのようなものだ。
 無理せず暖かくて美味しいものを食べたり、ぽかぽかのお布団でぐっすり寝て身体の調子を整えていこうな!

 法に触れちゃった悪い子のみんなは、すぐに出頭しよう!

 さて、今日はお兄さんが愛してやまない作家『小林泰三』御大の話をするぞ。
 小林泰三御大は、ホラー作家としてデビューし、その後も会社員と作家。二足のわらじをはいて執筆活動をしていた人なんだ。
 殆どの作品は短編~中編で、主にホラーとSF、そしてミステリの3つのジャンルで活躍していたんだよ!

 活躍していた……そう、今は過去形。
 2020年の11月末頃に、すでに鬼籍に入ってしまったんだ……。

 いや、悲しくなんかない!
 もう新作が読めないのか……というのは確かに寂しくはあるけど、人間って死んじゃうから仕方ないよね。

 というワケで、今回は是非皆さんに小林泰三作品を読んでもらいたい!
 そう思ってお兄さんがオススメの本を紹介しに来たぞッ。

 みんなも弔い目的、興味本位、なんとなく、どんな理由でもいいから小林泰三先生の作品を読んでみてくれよなッ!

 というか、読め。
 いいか、お兄さんの目を見ただろ? 目を、本気の目を……ナっ?
 読もう……な!

ホラーのやすみんオススメ

 小林泰三先生は、デビュー作がホラー作品だったので基本的にホラーの短編~中編を多く発表しているんだ。
 その内容は「グロテスク」と「ゴア」方面にステータス値が極フリの作品も多く、ホラー作品を読み慣れているお兄さんからしてみても思わず「ウボァッ!」と変な声が漏れてしまう程過激な作品もある位だ。
 背後で息づくような悪意と、ねっとりとした嫌悪感をまとわりつかせる表現はまさにホラー作家・小林泰三の真骨頂と言える程心に迫るものがあるから、お兄さんは大好きなんだよ!
 ホラー作家ながら「幽霊」や「呪い」といった要素を書く事があまり多くないのも特徴の一つだね。
 世界観はややSF理論に寄ってる事が多いから、不条理なタタリや幽霊ものがあまり得意じゃない人でも読める作品が多いと思うよ!(※怖くないとは言ってないけどね)

 そんな小林泰三先生のオススメホラーを紹介するよ!

・玩具修理者
 もし小林泰三ホラーを何か1冊だけ読みたいと思ったらコレがオススメだ!
 小林泰三先生のデビュー作にして、小林作品の原液そのもののようなこちらの作品はデビュー作である「玩具修理者」と「酔歩する男」の二つの中編作品が収録されているんだ。
 中編2本だけとボリュームはやや少なめだけど、デビュー作であり紙の本が最も手に入りやすい一冊でもあるよ。
 特にこの本に収録されている「酔歩する男」が与える恐怖は幽霊や呪い、祟りのようなものとは違うややSF色の濃い側面をもちながら、異質な恐怖を煽る良作として小林泰三ファンの人たちにも多く愛されているぞ。
 小林ホラー、1つだけなら読んで見てもいいかな……と思った人にオススメしちゃうよ!

・百舌魔先生のアトリエ
 もしキミが『小林ホラーをいくつか読みたいけど、文体や雰囲気が自分に会うかどうか1冊くらい様子見をしてみたいな』と思ったのなら、短篇集から読むのをオススメするぞ。(最も、小林泰三作品の殆どは短篇集なんだけどね!)
 小林泰三先生はホラー作家だったのでホラーの短篇集は多く、他にも「人獣細工」「肉食屋敷」「家に棲むもの」「脳髄工場」……と、多数あるものの、紙媒体で手に入る作品は現状かなり少ないんだ。(今上げた作品も全部電子書籍にしか存在してないしね)

 しかも、小林作品の本は短編~中編が3本程度収録されているものが多いんだよね。
 1作づつは興味深い作品であっても、やっぱり3作品くらいだと物足りないと感じる人も多いんじゃないかな。

 それらをふまえて考えた時、この「百舌魔先生のアトリエ」が一番「小林ホラー入門用」にピッタリじゃないかな、と思うんだよね。
 収録作品は雑誌掲載された作品などの再録が多いものの、作品数は多めだしまだ紙媒体の本が入手できる可能性がある本なんだ!(2021年2月15日現在)

 他にも「臓物大展覧会」はまだ紙媒体で入手出来る可能性があり、なおかつこの作品はホラーの他にSFよりの小林泰三作品が楽しめる上、小林泰三作品のなかではかなり「分厚い」方の作品なんだけど、一番最初にある作品「透明女」が小林作品のなかでも屈指のゴア描写をたたきつけてくるので、いきなり読者が選別されちゃうんだ!
 これからも小林泰三ホラーを読んでくれるかもしれない人を、いきなり選別してくる作品がトップバッターで現れる短篇集は、流石に最初にオススメするのは気が引けちゃうかな!?
 勿論、『あっしはゴア、グロ描写をオカズに白飯が食えるんでさぁ……エッヘッヘ……』という方は臓物大展覧会から読んでもいいと思うよ!
 短編を読んで会いそうだったら、是非「玩具修理者」はじめとした他の小林ホラーも挑戦してみてね!

SFのやすみんオススメ

 小林泰三先生はホラー作品でも幽霊やら呪いといったオカルト系の恐怖よりSF的な恐怖を書くのが得意な傾向があって、比較的早くからホラー作家とSF作家、二足のわらじで活動するようになったんだ。

 でも残念な事に、お兄さんはあんまりSFジャンルに明るくない!
 明るくないけど、ホラー界定住読者のお兄さんから見ても『これは面白いな……』と思った作品を紹介するね。

・海を見る人
 小林泰三先生の初期SF作品だけど、お兄さんはこの本が科学であり幻想である、という部分がとても美しいと思うんだ。
 SF的でありながらかなりファンタジー色が強くどこか儚げな読後感を抱く作品が多いのも特徴かな。
 毒々しいホラーの色が静かに息を潜めているので『SFは興味があるけどホラーは苦手』という人が初めて読む小林泰三SFにはピッタリだと思うよ。(小林泰三先生はSFでもミステリでも何でもホラーである自分を隠そうとせず、ペロッとグロ描写を入れてくるからね!)
 収録されている短編のうち「天獄と地国」はその後大幅な修正をして長編作品になっているから、もしこの作品が気に入ったら長編の方も挑戦してみてね!

ミステリのやすみん

 ホラーを書いている人は比較的にミステリ作品を書く事が多いよね。
 小林泰三先生も、ミステリ作品をいくつか書いているんだ。
 とはいえ、元々ホラー&SF畑出身の小林ミステリは、前提条件がSF的であったり、ミステリなのに必要以上にゴア表現が強かったりと有り体に言えば癖が! 癖が強すぎるんじゃ! という作品が多いんだ。

 同時に、小林泰三先生は『以前の作品に出た登場人物が殆ど同じ性格、同じ職業、同じ設定で現れる』という、スターシステムを採用している傾向があるんだけど、ミステリ作品は特にその傾向が強く、殆どの登場人物が以前の小林作品に出演していたりするよ。

 もちろんその登場人物が出ている作品を読んでいなくても話は完結してるから問題はないし、逆にもし『この登場人物が出る作品を全部読んでおきたい』となると、ホラー作品のやすみんも手を出さなきゃいけなくなっちゃうからすっごく大変だからね!

 それらを踏まえて、お兄さんのオススメを紹介しちゃうよ!

・大きな森の小さな密室(モザイク事件帳)
 最も手に入りやすい、小林泰三ミステリの短篇集だよ!
 小林泰三がミステリに登場させる人物、ほぼ全てがこの作品に出ているといっても過言ではないくらい、色々な登場人物が主役となって探偵となる話なんだ。
 扱う事件も特殊なものが多く、正統派ミステリーからややゴア描写の強めなグロミステリー、トンデモ展開のバカミスや日常的なちょっとした謎と、収録されている作品のバリエーションも多彩だ。

 また、この作品に出る「新藤礼都」や「田村二吉」は各々が主人公となった短篇集と長編が出ているから、二人が気に入った人はそちらもチェックしてみると良いと思うよ!

 余談だけど、『大きな森の小さな密室』(元のタイトルはモザイク事件帳だったものが、文庫化された時にタイトルが変わっているんだ。小林作品は、文庫版でタイトルが変わる事がよくあるんだよね!)に出る「新藤礼都」「岡田徳三郎」「西条源治」は実は「大きな森~」が初出のキャラじゃなく、全員「密室・殺人」という長編小説から出てきたキャラクターなんだ。
 だけど、この「密室・殺人」と、全キャラの性格がだいぶ変わっているので(徳さんは変わってないけどね)、最初に読むのは『大きな森の小さな密室』でいいと思うよ!

 『密室・殺人』はミステリよりホラー・サスペンスよりだから癖が強めで好みの分かれる長編だしね。

・因業探偵新藤礼都
 『大きな森の小さな密室』でも主役の話が幾つかある、毒舌で自分勝手で強気な天才エゴイストである新藤礼都が気に入った人は、彼女が主人公である短篇集もオススメするよ!

 相変わらず傲慢! 相変わらず不遜! 相変わらず自分が一番偉いと思っている!
 だけど清々しいくらい自分の道を突き進む彼女がその毒舌でバッサバッサと相手を切り捨てていく姿に酔い知れよう!

 一見すると……だが、実は……!
 といった一癖も二癖もある登場人物たちの秘密をバンバン暴いていく何でも屋として生き生きした彼女を楽しみたい人は特にオススメだよ。
 このシリーズは2まで出ているから、サックリとミステリを読みたい時などにピッタリだよ。

・殺人鬼にまつわる備忘録(記憶破断者)
 こちらも『大きな森の小さな密室』で主人公を務めた「田村二吉」が主人公の長編だよ!(田村さん事態はホラー作品のキャラなんだけどね)

 諸事情により記憶が保てない主人公が、殺人鬼のもつ「ある秘密」を知ってしまったがために狙われている!
 主人公は果たして殺人鬼を捉える事が出来るのか……。

 ミステリ、として紹介したし実際にミステリの側面があるけど、これはむしろ『異能力サスペンス』と呼ぶ方がいいかもしれないね。
 かなり設定が特殊な状況で、圧倒的に不利な状況にいる主人公が、でもそこまで頭が悪いワケではないから精一杯知恵を絞っていく姿はなかなかに熱い展開だよ!

 ラストは意外性があるけど、まぁ、それは、うん、触れないでおこうな!

 この作品も、文庫になってタイトルが変わった作品なんだ!
 文庫版は「殺人鬼にまつわる備忘録」になってるけど、書籍サイズだと「記憶破断者」になっている。
 まだどちらも手に入る可能性があるから、好みの方を購入するといいと思うよ。
 ちなみにお兄さんは「記憶破断者」の表紙が結構気に入ってるから記憶破断者の方を所有しているんだ。タイトルがカッコイイと思って気に入ってるんだよ。

ΑΩという快作

 ホラー作家としてデビューし、早くからSF作家としても頭角を現した小林泰三先生は特にクトゥルフがモチーフの作品とウルトラマンをモチーフにした作品を多く手がけているんだ。

 そんな小林泰三先生が「クトゥルフホラー」「ウルトラマンオマージュ」(パロディの方がこの場合近いかもしれないね)「SF理論」の三つの要素を、どれも一切妥協せず譲る事もなく三者がまったく自己主張をやめなかった結果、『ジャンルの三国時代』みたいな状態になってしまった作品……。

 それが『ΑΩ』(アルファオメガ)なんだ。

 この作品の評価は……正直かなり難しい!
 好きか嫌いかで言われるとお兄さんは『大好き』なんだけど、読んでる最中ずーーーーーーーーっと「俺は一体何を読まされているんだ?」という感情が抜けず、読み終わった後も「俺は一体何を読んでいたんだ?」という感情が抜けず、何ならこうして感想を書いている今でも「あれは一体何だったんだ」という感情で宇宙猫顔をしてしまう……。

 でも間違い無く当時の小林泰三先生が本気(マジ)で熱意を込めて書いたのがビリビリ伝わってくる怪作、それが『ΑΩ』という小林泰三界のオーパーツなんだ!

 当然この『ΑΩ』は「小林泰三ってどんな本書いてるんだろ、読んでみよッ!」という純粋な読書家の皆さんがいきなり手にするにはちょっと……ちょっとこう……敷居が高い奴なんだ!

 だけど残念ながらというか、ある意味幸いというか、この作品は紙媒体で入手するのが比較的難しい作品の一つだから、意図して注文をしない限り普通は『本屋で偶然手に取った作品がΑΩだった』という事はまずないから安心してね!

 同時にこの作品の癖は小林泰三作品の中でも、SFでもホラーでもクトゥルフ業界でもなかなかの「異質にして異端なる怪物」なので、小林泰三作品を読んで氏の作品に興味をもった人は、機会があったら触れてみて欲しいとも思うよ!

 電子書籍なら手に入るし、図書館などに時々置いてあるから『図書館で何か小林泰三作品に触れてみよう!』と思ったら、偶然にも出会ってしまう可能性もあるしね!

アリス殺しと一連の物語について

 ここは「小林泰三初めての人」ではなく「小林泰三を愛した人」向けにお兄さん話していこうと思うぞッ。
 小林泰三初心者向け記事の体裁をとって、いきなり初心者をニトロぶっつんだ8Vエンジンで置いていくマネしてごめんねッ!

 反省はする! だが後悔は一切しない!
 あぁ、神に許しなど乞うものか!

 さて、小林泰三作品の長編ミステリとして有名なシリーズに「アリス殺し」「クララ殺し」「ドロシイ殺し」といった「有名童話作品に出る登場人物が殺害される」シリーズがあるんだ。(ティンカー・ベル殺しはとりあえず置いておいたよ)

 全てSF設定が下地になったミステリで、特殊な世界観設定は「小林泰三先生ならでは」ながら……。

 癖がッ! 癖が強すぎるんじゃッ!

 という理由もあり、やすみん作品として有名である反面、最初からオススメするのにはちょっとだけ抵抗がある……そんなシリーズでもあるんだよね。(長編だから短編より気軽によめないってのもあるしね)

 もちろん、特殊な世界観ながらミステリとして成り立っているので「ミステリ作品」を読みたい人は問題なく楽しめる作品だよ!
 実際、ミステリファンの皆さんにも高く評価されており、何だかお兄さんも嬉しくなっちゃうな! えへへ……。そうでしょ? 面白いでしょ……?

 って気分になるんだ!(※お兄さんが誉められてるワケじゃありませんが、推し作家を面白いと言われるとみんな嬉しいのです)

 でも、残念ながら小林泰三先生を「ホラーの人」と認識している層でアリス殺しを読んでる人はあんまりいないか……。
 いたとしても「やっぱりホラー読みてぇなぁ」って顔しちゃう民が多いというのもまた事実なんだよね。

 それはお兄さんもすっごくわかるんだ。
 だってお兄さんもホラーのやすみんから入った人間なので「ホラー読みてぇなァ」となっちまうからね!
 でもね。

 分るからこそ、是非「ドロシイ殺し」に触れて欲しいとも思っちゃうんだ。

 お兄さんが明確に『最近、小林泰三先生の作風変わったな。過去作品の続編を書くのが増えた』と思うようになったのは『人外サーカス』からなんだけど、作品として『自分の過去作品の集大成を作ろうとしている』感が強く出始めたのが、この『ドロシイ殺し』なんだ。
 詳しい事は作品に触れてほしいから言えないんだけどね。

 ドロシイ殺しは、ホラーの小林泰三を愛した人に是非とも触れて欲しい作品に仕上がっているんだ。

 アリス殺しのシリーズなので、アリス殺しから読むと理解度が深くなるから先に出ている二作。
 アリス殺しとクララ殺しも読んで欲しいといえばそうなんだけど、ドロシイ殺しだけ読んでも問題はないと思うよ。

 是非、小林泰三という作家の一つの形を見て、感じて頂ければ……。
 それはきっと幸いなことだよね。

さいごに

 さぁ、良い子のみんなも悪い子のみんなも、小林泰三作品に興味をもったかな!?

 興味をもつ・もたないに関わらず、とりあえず買おう!
 そして読もう!

 いいかい、お兄さんの目をじっと見るんだ。
 段々読みたくなってきただろう?
 いいねいいね、その調子だよ。もうわかったね?

 小林泰三を読め。

 お兄さんからの訴えは以上だ!
 みんなも小林泰三作品のこと、好きになってくれよな!

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