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潜水少年とケミカルウォッシュ#3

イケメン潜水少年に無事に声をかけ、電話番号をゲットした。
携帯電話が普及する前だったので家電(子機で行けるとこまで行く!親にばれないように)で毎日電話した。私からかけるときもあったし、電話代を気にして潜水少年からかけてくれることもあった。
どのくらいの日数を電話で話したかは覚えてないが、私たちは付き合うことになった。毎日お互いの学校であった出来事の話をして、好きな芸能人の話をして。バラ色だったな~。あの時の世界はバラ色だった。あの時の胸のときめきを今でも感じることができる。そうこうして、デートの話が持ち上がり、まだウブだった私は二人きりで会うなんてこっぱずかしいので、ダブルデートを提案した。彼に会う日が来るのを指折り数えた。「早く会いたいね。」って毎日彼と話していた。

ダブルデートの日に衝撃が走った。早めに待ち合わせ場所について彼を待っていたら、はにかみながら現れた彼は信じられないくらいにダサかった。
今ではむしろオシャレなんだろうが、彼はウエストがゴムタイプのケミカルウォッシュのジーンズを履いていた。くるぶしが派手に「こんにちは」した、つんつるてんのジーンズにTシャツを激しくINしているではないか。
私はなんだか恥ずかしくなって、その場を猛ダッシュで逃げてしまった。
遠くから「待って~」という友人の声が聞こえる。
でも私は待てなかった。渾身のパワーを使ってその場から消えた。
その後、彼からは数回電話が来たが電話に出ることが出来ず、いつの間にか電話もかかって来なくなった。俗にいう自然消滅だ。

彼と過ごした日々は何だったのか、夢かまことか。そんなことも考えなくなったある日、彼からハガキが届いた。
「もう一度、やり直してくれませんか。YESの場合は〇をNOの場合は✖を書いて返送してください。」
生まれて初めて見た往復ハガキだった。ハガキの為例にもれず家族全員に内容を知られてしまい、母親からは叱られ、長女は往復はがきの衝撃に大爆笑していた。次の日私は✖と書いて、ハガキをポストに投函した。

初めて会った日もプールから出た彼の姿は恐らくケミカルウォッシュだったはずなのに、なぜあの時は彼の私服にまったく目がいかなかったのか。
服装だけで冷めるなんて。大事なものは目に見えないと星の王子様から教わったのに。私って性格悪い。色々な葛藤が私の中を駆け巡った。
私の恋は終わりを告げた。猛ダッシュで去っていった。
あれからうん十年たって彼のことを思い出すと、ケミカルウォッシュだっておしゃれだし、往復ハガキで復縁を求めるなんて斬新だし、背が高かったし穏やかだっかし、声が心地よかったし、聞き上手で私の話はなんでも聞いてくれたし、なにより潜水が上手だった。

逃した魚は大きかったんだと、今になって気付く。むしろ彼は魚だったのかもしれない。
そして、返信用ハガキに△と書くくらいのユーモアが私にあったらよかったのに。

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