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ブロンズの猫

玉那覇 正吉という芸術家の作品に「目しいた野良猫」というブロンズ像がある。沖縄県立美術館の作家紹介を眺めていて、偶然見つけた。

目しいた、または盲いた野良猫。ブロンズの猫は痩せて骨ばっている。何年も生きるうちに盲いたのか、はじめから見えていないのか。

このブロンズの野良猫と出会ったとき、こんなに侘しい野良猫で力強さを表現できるものなのかと衝撃だった。作家にその意図があったかどうか知れない。まだ写真でしかその像を見ていない。それでも、もう私の感性はこの猫を知る前には戻れない。哀れな猫の堂々たるさま、ごわついて同時に滑らかなブロンズの毛並み。

柔らかいものに固さを感じたり、輝くものに曇りを見つけることを恐れなくてもいいのだと思った。美しい朝焼けを見てこの世から消えて無くなりたいと思う気持ちは、必ずしも私を否定しているわけではないのだと知った。

美術館の彫刻を何十と見てまわって、その中でたったひとつ自分の心を強く揺さぶる像に出会ったとき、もうその作品を知らなかった頃には戻れない。私の感性は影響を受けてしまった。これから先、私が見るもの知ることのすべてに、目を凝らせばその野良猫の歩いた跡が見つかるのだろう。

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