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小学生にもわかる夜の梅のおいしさ

他の人のnoteを読んで、楽しい気分になれるのはうれしい。
そのついでに、いろんなことを思い出せるのもうれしい。

そんなことの一つをご紹介。




コロナ禍の前のできごと。

実家の母に送ろうと、とらやに羊羹を買いに行った。

どれにしようかなあ。
やっぱり、定番の「夜の梅」かなあ。
でも、いろんな味を楽しむのもいいしなあ。
私やったら、「夜の梅」一択やけど、母親の場合は、どうやろう。
たぶん、とらやってだけで、大喜びやろうからなあ。

なんて、思いながら羊羹を選んでいた。

ついでに、店頭に並べられた生菓子にも見とれる。
ちょっとお値段におののきながらも、その美しさはお値段以上。
お味もきっとまちがいない。

大学時代の友人のお父さんが、大の羊羹好きだったのを思い出した。
夜中に、とらやの羊羹を一本食べたことがあったらしく、友人はめちゃくちゃあきれとった。
その話を聞いた時に、一緒に驚いたふりをしながらも、羊羹一本やったら、もしかしたら私もいけるかもしれんと、思ってた。
その頃は、とらやの羊羹のお値段を知らなかったので、量だけでなく、そんなお高いものを、一晩で食べつくしたことへの非難も含まれていたことには、気が付かへんかったけど。

羊羹は、私も大好きである。
小学生の時のお弁当に、母が、いつもこっそりと羊羹をしのばせてくれていた。
緑色のバレンをしきりして、おかずのひとつのように詰められているので、誰にもばれない。
周りのおかずは、すべてちょっぴり甘くはなるけど。
そんなことはかまわない。
つやをおびた黒いかたまりは、私には幸せのかたまりだった。
シンプルな小豆の羊羹。
今でこそ、コンビニにいけば、井〇屋さんなどの小さな羊羹がかんたんに手に入るけど、当時は、わざわざ和菓子屋さんに買いに行き、一切れずつ包んでもらっていたのだ。
たかだか遠足のお弁当に、凝った演出である。

そんな思い出から、私にとっての羊羹は、小豆の一択。

だから、とらやにいけば「夜の梅」一択となるのだ。
なめらかな小倉の中に、夜の梅に見立てられた小豆の粒。
思い出が、いつしか憧れになってしまった。
竹の皮に包まれているものなんて、神々しすぎて、直視できないくらい。


私の走馬灯の時間は終わりにして、いよいよ注文をし、支払いをする。
結局、母には、いろんな味の詰め合わせにする。
いろんな味を食べたほうが、友達とのおしゃべりのネタになるんちゃうかという、勝手な判断。

離れたところにすむ母に、宅急便で送ってもらうために、宅急便の送り状を書く。
送り状を書くコーナーに移動する。
送り状を書きながら、となりにあるとらやの菓寮に行くことで、頭の中はいっぱいになってしまっていた。
夜の梅や、生菓子を、まのあたりにして、菓寮で寄らずにしては帰れへんわなあ。
何をいただこうかなあ。
やっぱり、夜の梅か・・・。
季節の生菓子か・・・。
いや、久しぶりにあんみつか・・・。
住所がなかなか書きあがらない。

ふと、コーナー横の壁に目が行く。
子どもの字らしい小さなお手紙が、たくさん貼られている。
一番下には、小学校名がある。
近くの小学校の子どもたちからのものだ。
どうやら、授業の一環で、地域にあるお店としてとらやさんをを見学し、いろいろと教えてもらったようだ。
そのことへのお礼のお手紙らしい。
へ~~。
とらやさんて、地域の子どもたちにそんなこともしてるんや~。

面白そうと思いながら、一つずつ読んでみる。

「とらやさん。夜の梅をありがとうございました。」
「夜の梅は、とっても美味しいですね。」
「夜の梅が人気ってことを、はじめて知りました。」
「今度お母さんと、夜の梅を買いに行こうと思います。」
「羊羹に名前があるってことを、初めてしりました。」
などなどなどなど。
言葉遣いについては、私の危ない記憶をたどっているので、全然正確ではないけれど、内容には大きくちがいはない。(と思う。)

小学生からのお手紙で、こんなにも「夜の梅」が連呼されるなんてことがあるんやあ。
ほとんど全員が「夜の梅」の言葉を書いている。
先生からのお題で、「夜の梅」って言葉を入れなあかんかったんやろかと思うほど。
きっと、とらやさんは、お店のことや、商品づくりのことや、働く人のお仕事の内容や、たくさんのお話をされたんやと思う。
でも、きっと、ほんの一口の味見が、すべてを奪ってしまったんやなあ。
小学生の心をわしづかみにしたんやなあ。
たしか、2年生やったと思うねん。
2年生にも、「夜の梅」のよさがわかるんや~~。
きっと、「夜の梅」が脳みそに刻み込まれたこの子たちは、大人になったら、自分のお金できっと「夜の梅」を買いにくるはず。
転校しても、引っ越ししても、とらやさんはあっちこっちにあるしな。

ということは、とらやさんは、お仕事内容の勉強が「夜の梅」の味にかきけされたとしても、お商売としては大成功ってことかもしれへんなあ。

いやいや、「夜の梅」の美味しさは、小学生にもわかる、老若男女向けのものってことが証明されたってことか。


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