天国までの道のりを今から考えようーーライフネット東京が終活セミナー

 人生の最期をどこで迎える?延命治療は受ける?食べられなくなった時の対応は? 人生の最終段階で直面するこうした問題に対処するために、普段から準備をーー。葬儀社・ライフネット東京主催の終活セミナーが4月5日、東京・東五反田のライフネット東京事務所で開催され、柴垣医院(東京・自由が丘)在宅診療部ソーシャルワーカーの松本晶子さんが、そう訴えた。情報を得るためには、終末期ケアに関わる様々な職種の人と接触し、「この人にならなんでも聞ける」という出会いも不可欠になるという。

「病院で死ねない時代を生き終わる為の学び」をテーマに終活セミナー

 松本さんはまず自己紹介。
 ソーシャルワーカーとは、医療・介護・福祉・教育などのさまざまな業界で相談支援を行う専門職の総称。松本さんは路上生活者から相談を受ける仕事が、ソーシャルワーカーとしてのスタートだったという。現在は、医療ソーシャルワーカーとして、在宅医療の患者やその家族からの相談に乗り、手助けをしている。「一言で言えば、私はお見合いのおばさん。困りごとを解決するために病院や施設とお見合いをしていただいています」。
 「みなさんは、最終地点をどこにするつもりですか」と松本さんは問いかける。
 看護師さんがいつもそばにいてくれそうだから病院?でも本当に、一人の患者に付きっきりになってくれる?
 やはり住み慣れた自宅?でも、家族に迷惑をかけそうだし、急に具合が悪くなった時に救急車を呼ばなければいけなくなる?
 救急車の対応もコロナ禍でずいぶん変わったという。病院は患者でいっぱいとなり、事前指示書(突然の病気や認知症などで自分の意思を伝えるられなくなる場合に備えて、自分の終末期のケアをどうしてほしいのかを事前に書き記したもの)がないと、搬送を取りやめるというケースもあるという。「万が一の時、どんな医療をどこで受けたいのかを考えておかないと、思い通りのケアは受けられない時代になった」と松本さん。
 「ドクターX、外科医・大門未知子のような死にそうな人を蘇生させる医者に対処してもらいたいと思っているなら、高度医療ができる医療機関に行く必要があるが、あなたの自宅近くにそんな病院はありますか」。松本さんの質問にセミナー参加者は病院の名前を挙げるが、救急医療に対応していても、高度な医療には対応していない病院も多いことがわかった。高度な医療に対応する病院が一つもない区も東京にあることも分かった。
 東京都の高度医療に対応できる医療機関は以下の通りだ。
 日本医科大学付属病院
〒113-8603  文京区千駄木 1-1-5
 東邦大学医療センター大森病院
〒143-8541  大田区大森西 6-11-1
 杏林大学医学部付属病院
〒181-8611 三鷹市新川 6-20-2
 東京医科大学八王子医療センター
〒193-0998 八王子市館町 1163
 帝京大学医学部附属病院
〒173-8606 板橋区加賀 2-11-1
 武蔵野赤十字病院
〒180-8610 武蔵野市境南町 1-26-1
 日本医科大学多摩永山病院
〒206-8512  多摩市永山 1-7-1
 東京都立広尾病院
〒150-0013 渋谷区恵比寿 2-34-10
 東京都立墨東病院
〒130-8575 墨田区江東橋 4-23-15
 東京女子医科大学病院
〒162-8666 新宿区河田町 8-1
 東京都立多摩総合医療センター
〒183-8524 府中市武蔵台 2-8-29
 日本大学病院
〒101-8309 千代田区神田駿河台 1-6
 日本大学医学部附属板橋病院
〒173-8610 板橋区大谷口上町 30-1
 国立病院機構東京医療センター
〒152-8902 目黒区東が丘 2-5-1
 国立病院機構災害医療センター
〒190-0014 立川市緑町 3256
 東京医科歯科大学病院
〒113-8519 文京区湯島 1-5-45
 東京医科大学病院
〒160-0023  新宿区西新宿 6-7-1
 昭和大学病院
〒142-8666 品川区旗の台 1-5-8
 聖路加国際病院
〒104-8560 中央区明石町 9-1
 東京女子医科大学附属足立医療センター
〒123-8558 足立区江北 4-33-1
 公立昭和病院
〒187-8510 小平市花小金井 8-1-1
 青梅市立総合病院
〒198-0042 青梅市東青梅 4-16-5
 日本赤十字社医療センター
〒150-8935 渋谷区広尾 4-1-22
  国立国際医療研究センター病院
〒162-8655 新宿区戸山 1-21-1
 東京大学医学部附属病院
〒113-8655 文京区本郷 7-3-1
 東京都済生会中央病院
〒108-0073 港区三田 1-4-17
 東京慈恵会医科大学附属病院
〒105-8471 港区西新橋 3-19-18
 順天堂大学医学部附属練馬病院
〒177-8521 練馬区高野台 3-1-10

 自分の病状に合わせて、どの病院で高度な医療を受けたいのか、受けることは可能なのかを事前にしっかり考えておく。そして救急搬送が必要になった時に、高度医療が必要な、蘇生が必要な状況なのかなども頭に置いておかないといけない。闇雲に高度医療ができる病院に搬送してもらおうとすると、空いている病院が見つからず、何時間も救急車に待機することにもなってしまう。
 病院でも治療するための病院と、痛みをとることが目的の緩和ケア病棟がある。また、緩和ケアというと終末期に行われるものと思われがちだが、最近は、早期からがんに対する治療と並行して行われることもある。そんな知識も備えておきたい。
 松本さんは「入院治療はどのくらいの期間行われるか知っていますか」とセミナー参加者に質問する。答えは10ー15日。この期間に、退院後、どこで療養するかを決めなければならない。療養施設、介護施設についても知らなければならない。
 ではこうした情報をどこで入手すればいいのか。
 松本さんは「まず地域包括支援センターに行くことをお勧めする」というが、「どこがいいですか?という質問には、特定の施設を応援することにつながるため、答えられない」。だから、可能な限り具体的に要望を伝え、絞り込んだ情報を得るしかない。
 情報はケアマネジャー、医療ソーシャルワーカー、訪問看護師、医師ら、在宅医療に関わる職種の人が持っているが、親身になって欲しい情報をくれる人とは、なかなか出会えない。「でも、出会う努力をするしかない」(松本さん)。

必要な情報を得ることが簡単ではないことを知り、セミナー参加者は考え込む場面も多かった。

 松本さんは、「天国に続く扉の前に立ち、そこへどんなルートで辿り着くかを考える。その作業は若い時からでも行うべきだし、何度計画を練り直してもいい」とアドバイスする。
 私たちは医療や介護の問題を考える時、まず一般的に、どんな制度があるかとか、どんな病因、介護施設があり、どんな治療法、どんな介護が用意されているのかを学ぼうとするが、それでは万が一の状況に直面した時に対応できないことが分かった。住んでいる地域にどんな医療や介護の資源があり、どうすればそこに辿り着けるのか、情報を持っている人は誰なのか、その人とはどうすれば出会えるのかを、早いうちから考えておかなければいけない。
 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)という言葉は知っていても、「あらかじめ」「どれだけの」ケアや生き方の「具体的情報」を得て、どれくらい「しっかりした計画」を立てるかは、簡単ではないと痛感した。



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