見出し画像

目指す「原生的な森」が定義されていない?

こんにちは。斜里町役場環境課の寺屋です。

しれとこ100平方メートル運動の森・トラストは、知床の開拓跡地を原生的な森に戻すナショナルトラスト運動です。

原生的な森の定義とは?

先日、質問を受けました。
「原生的な森の定義は?」というものでした。
原生的な森…みなさんならどう答えますか?


国有林をお手本に

ボランティア活動など現地に来てくださった方によく「人の手の入っていない国有林をお手本に森づくりを進めています」と説明します。

※説明している様子の動画

知床にいらした方に開拓跡地と国有林とを歩いて比較してもらうと、「暗くてうっそうとしている」「倒木が多い」「太い木が多い」といった感想が返ってきます。
一方、開拓跡地はササやワラビが高く、針葉樹が主体の森です。

元は国策で農地だった場所を、農地でなかった森のように回復させるお手伝いをする。これがしれとこ100平方メートル運動の考え方です。



伐採履歴のない国有林の様子


原生林にしたいの?

原生、原生と言っていますが、「原生林」を作るのは無理です。
原生林とは、人の手が入ったことがない森林のことですが、一度開拓されている以上、どんなに豊かな自然が立ち上がっても「原生林」にはなりません。矛盾しています。
我々はしかし、原生的な森にしたいと思っています。
このニュアンスは、伝えるのがとても難しいです。


アカエゾマツ造林地の間伐後の様子



知床の生い立ち

知床半島は100万年前に海底噴出物などを主体に隆起しました。
3700年前には知床硫黄山と羅臼岳の間にあった山が噴火で崩壊(山体崩壊)し知床五湖を形成しました。その後、植物の痕跡が見られるのは1900年前で、山体崩壊から1800年かかりました。

一方、羅臼岳の噴火は2300年前で、知床の台地上には黒土が積もっています。
そう考えると、「2000年くらい待てば原生林が形成される」とも考えられます。これを100年、200年に短縮できたらすごいことだと思いませんか?
この森づくり活動は長い時間を必要とします。植物の寿命は長いので、次の世代の植物に命を託すまでには時間がかかるからです。

いちど人が傷つけた自然を、人の手で回復させる。10倍くらいの時間短縮をして豊かな森を作る。ロマンのある話だと思います。


昔の植物をそっくり復元させようというわけでもない

決して、「地質の中にある種子を調べて、その土地にむかしいた植物を同じような組成で復活させよう」という取り組みではありません。
(いまは絶滅した植物もあるかもしれませんね)

「近くの国有林と同じ組成で植物を植えよう」という取り組みでもありません。

国有林のコピーの森を作りたいわけではないです。仮にそうすると、すくすく成長している森づくり作業地を調べても、「この広葉樹は国有林のサンプル区画にないから伐る」「針葉樹はもっと細くしたいのに太ってしまっている。うまくいっていない」というような評価になってしまいますよね。
国有林にない木があっても良いし、木の太さが違っても良いです。庭園のように緻密に計算された森づくりではなく、森自身の回復力を助ける森づくりを目指しています。


自然を循環・自立させる

専門家の先生によると、「生態系が自然に循環すること」が重要とのお話でした。
知床の開拓跡地は、40年以上経ってもササ原で木が育たない場所が多くあります。

ゆくゆくは、人の手を加えなくても芽が木々に育っていき、樹種が多様になり、近くの原生林と似た森に育っていく状態を目指すべきです。
森が持続可能性を取り戻したら、傷つけた自然を治癒したと言えるのではないでしょうか。

「原生的な森」をはかるモノサシは必要ない

「原生的な森を復元したい」とは、の原生林(人の手の入っていない森)そのものを作りたいわけではなく、すでにある原生林のコピーを作りたいわけでも、原生林を開拓跡地に移植したいわけでもありません。ですから、樹種の組成や種数、土の窒素量や動物相の種数など数字ではかれる「原生」の定義はしていませんし、そこまでは必要ないと思っています。

こうなれば原生的な森だ、という「定義」はありません。

しかし、森づくりの「方向性」は決まっています。国有林のように、針広混交林を復活させ、樹種多様で森の木々の高さも多様な複層林をめざしています。
種多様な森ならば、さまざまな動物がさまざまな用途で利用できます。森や川は、動物たちの生活基盤です。
つまり、知床世界自然遺産の価値、「生物多様性」を維持するには、原生的な森が必要です。

開拓跡地はなかなか森に還ってくれません。ササやイネ科の草が強い存在感を発揮しており、増えすぎた鹿の影響が植えた苗を食べてしまいます。

でも、我々は引き続き、豊かな森をつくっていきます。


ご質問を受けることで、回答を考え、伝えるために言葉を選び…とやっていくうちに言葉が磨かれていきます。
ぜひご質問あればお寄せください。




参考図書

参考になりそうな書籍をご紹介します。




【しれとこ100平方メートル運動の森・トラストWeb媒体】

しれとこ100平方メートル運動公式ホームページ 
instagramFacebookTwitterYouTubeやってます。

読んでいただきありがとうございました。