強み弱みを知る
さて、初回からずいぶんと時間が経ってしまいました。
ここからは本社に戻った2007年以降、どこから手を付けたのか少しずつまとめていこうと思っています。
ここからは、自己紹介と言うより、わたしがどうやって具体的に立て直しをいっていったかの極めて個別の事例の紹介です。一般論で語ることではなく、むしろ個別の事例としてしか語れません。
個別事例だからこそ見えてくるものがあると考えたのは、結局は、いかに自分の問題として取り組むかということが重要だと考えるからです。つまり、どうやって自分の問題にしていったかのプロセスでもあるのです。それは「社長になる」までのプロセスそのものかもしれません。
少しでも実際に事業承継で困っている人の一助になれたら幸いです。
前回はこちら。
自分自身を知る
どこから手を付けてもいいのかもしれません。そもそもわたしもいくつかのことは同時に進めていました。そのなかでも最も手前のことを考えてみました。実はその数歩先の「やめることを決める」から書き始めていたのですが、何か抜かしているような気がして、それに気付きました。
「自分自身を知る」です。
自分ができることから考える
まずはわたし自身ができることを考えてみることからはじめました。何が得意で何が苦手なのか、得意なことは自分でやって、苦手なことは誰かに任せることからはじめようと考えたのです。
前回も書いたようにわたしは演劇の世界からビジネスの世界に来ました。そのため、そこでやってきたことを企業のビジネスのプロセスにも当てはめて考えました。(たとえば、自分がやってきたことがスポーツだったらスポーツでもいいでしょうし、音楽なら音楽でもいいでしょう。わたしは演劇だったというだけです。)
では、どのように考えたか見ていきましょう。
戯曲(台本)を書く段階でいえば、まずは「どんな言葉を話す」メンバーと仕事をするのかワークショップで探るプロセスもありましたし、演出のレベルでいえば、どんな動きができるのか、どんな声なのか、つまりどんなポテンシャルを持った俳優たちがいるのかを知る必要がありました。これも同様にワークショップの中でお互いを知り合うこと(1、メンバーのことを知る)が重要でした。
次に劇場決定や予算計画(2,制約の洗い出し)などがありました。まあ、多くの小劇場では、予算がそれほどあるわけではありません。だからこそ最初に書きたい戯曲があるのではなく、メンバーを含めた制約から考えることが多かったのです。予算も劇場サイズも制約がありますから、そのなかで何ができるのかを考えました。そしてその考え方は、中小企業にははまっていました。(300人を超える企業の場合は、おそらくそんな悠長なことはいっていられないかもしれません。)
さらに、上演までのプロセスでは、俳優はもちろん、スタッフである、舞台監督、照明、音響、制作(宣伝、受付、会計)チームとの連携も必要です。
一方で、わたしにはいわゆる「ビジネス」の経験が浅かったので、社内のみんなのビジネス経験を生かしていくことが必要でした。
自社のメンバーのことを知る
とにかく、まずは自分自身を知ることです。それはわたし、あるいはあなた自身のことでもあるし、会社自身のことでもあります。
会社自身のことを知るために最初にやったのは「1,メンバーのことを知る」ことでした。そのために、わたしが行った主な施策は「改善提案法」です。
現状の問題点をその人なりに見つけてもらって、解決方法を書いてもらいます。ただそれだけです。このときにはあくまでもその課題を解決することが目的ではなく、メンバーがどんなことを考えているのかを知ることが目的でした。無責任でも自由に書いてもらいました。その代わりに毎月一件は必ず出してもらいます。しかも自分の言葉で書くというのが条件です。
当時60数名の社員さんが何を課題として捉え、どんな言葉を使っているのか(何を自分の問題として捉えているのか、別の誰かの問題として捉えているのか)つまり、「どんな景色を見ているのか」を知りたかったのです。
わたしは毎月、その手書きの改善提案をデータベースに入力しなおし、書き写しながらその人の声を想像し、その人の気持ちになるように心掛けました。およそこの試みは丸9年間続きましたが、前半5年間(60ヶ月)の目的は、個人がどんな景色が見えているか、会社に向けて手紙を書いてもらっているようなものでした。
「会社に手紙を書いてください」と言っても当然何を言ってるんだろうと相手にしてもらえるはずもありません。漠然と「アンケートに意見をください」と言っても「匿名なら……」という反応になってしまいます。「改善提案」というフォーマットを使うことで、みんな自然と書いてくれました。
もちろん、制度上の建て付けとしては、わたしが採点し、その採点に応じてボーナスに数百円から数千円がプラスされる設計になっていますので、みんなにとってのインセンティブもそれなりにありました。
※とはいえ、今思えば、これは時間のかかる方法ではありましたし、副作用としてなんでも言いやすくなるという良い面と、愚痴を言いすぎる人が生まれる悪い面が出てきました。
そうでした、会社に意見を聞いてもらえないという声もよく耳にしていたので、そういう意味でも必要なプロセスだと思ってわたしはやっていました。ただやはり「何が課題で何が愚痴なのか」わからない人が生まれてしまうのは問題でしたから、後半の4年で制度を改定しそこは修正しました。このあたりも個別事例らしい問題です。
組織のバランスと強み弱みを知る
個人の考えていることや見えている景色の理解を進めつつ、同時に徹底的に会議を行いました。これまでの従来のお通夜の報告会のような会議ではなく、議論をする場としての会議です。
当時は事業部制で、工場と営業それぞれ一セットずつ、それぞれの事業部ごとに二つの拠点に分かれていましたから、それぞれの拠点で部門を横断するリーダー会議を設計しました。
各拠点での部長や次長、課長、リーダーが組織の中で今、どのような役割を果たしているのか縦の軸でもどういう力関係が発生しているのか会議の中から掴もうとしました。
会議の目的は、彼らが課題として設定しているものをどのように解決するかという議論の場所でした。当初は互いの部門の問題点を指摘し合うばかりで何も解決することはありません。誰の声が大きいのか、誰が裏で糸を引いているのか、誰が誰の影に隠れているのか、誰の優しさが徒になっているのか。あるいは、逆に誰がリーダーシップを発揮していて、どんな声に賛同が集まりやすいのか。どんな価値観がここで形成されているのか。
そういうことをじっくりと観察するために夜遅くまで「会議」をし、話し合いの場をつくり、月に一回議論しました。
今、思い返すとかなり非生産的なことをやっていたなと思いますが、人と人との力学がどう駆動しているのかをある程度把握しておく必要がありました。
それから管理職でさえ一日喋らないで終わる人がいる職場でしたから、どんなカタチであれコミュニケーションを触発させる必要がありました。
悪さ加減ばかりではなく、強みの発見もありました。何が機能してベースとなる利益をつくっているのか。多くの弱点は裏返すと強みだったりします。
そこに言葉をつけて、組織の強みと弱みをすくい上げていきました。
繰り返しますが、事業部制で二つの事業がありましたから、二つの拠点でそれぞれに行いました。似ているところもまったく違うところもあり、すでに二つの異なる文化が生まれていました。
それぞれの事業部のなかの部署ごとに、何を重要視しているのか、その部署の考え方、そこに影響のある人の考え方を見ていくと、どことどこが対立しやすく、どことどこは協調しやすいのかが少しずつ見えてきます。
素直で協力的な、チームが形成しやすい部署から協力してもらって、まずは改善の第一歩を踏み出したいところです。リーダー会議を使って実際に課題解決をやってみつつ、社内の目線が互いの問題点ではなく、解決可能な課題に切り替えるように心がけました。
課題が解決可能になれば、自然とみんな前向きになっていきます。
事業の強みを知る
場合によってはこれが最初ですが、自社が何で儲けていて、何で損しているのか、そこははっきりわかっておく必要があります。それがわからないとどこに向かうべきかがわかりません。
最初はざっくりとでいいので、どの事業でどの市場向けの仕事が自社に合っているのか、何がコア事業になっているのか、そこは見極めておきたいところです。
決算書でもそのあたりが仕分けされていない場合は、まずは仕分けるところからはじめたいところです。税務用の財務会計とは別に、社内用の管理会計を行うことで、まずは事業ごと、市場ごと、顧客ごとの売上・利益管理を行うことができます。
まずは大きく事業ごとでいいと思います。工場なら製造しているものの利益と外部委託で製造しているものの利益は分けて把握したいところです。
当社では、精度は悪くてもそれぞれの事業部別の管理会計はできていたので、変化を捉えることはできました。ただ、経営の決断の材料にはできていませんでした。
とても難しいことですが、どんなにデータが集まっても、何回現場を見ても、知りたくないと思ったままでは知ることができません。覚悟を決めて、弱みを知るということが重要だと思います。
これらはSWOT分析という強み弱み分析で洗い出してみることができますが、フレームワークそのものよりも、どう考えて向き合っていくかが大事かと思います。
まずは弱みがある、強みがある、それぞれに違いがあるという、そのことを知るということからはじめたということです。SWOT分析やクロス分析などのフレームワークに落とし込むのはずっとあとのことでした。
次回は「制約の洗い出し」の話です。
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