金魚と死
小学生の時分、上野のところで一度金魚を買った。上野の家は観賞魚店だったのである。
赤い和金を買った。水槽からすくう際、上野が誤って一匹を排水パイプに落とした。
「あいつ、どこに行くん?」
「さぁ?」
落ちた金魚がこれからどうなるのか、考えたら、何だか怖くなった。
買った金魚は小さな水槽に入れておいたが、じきに死んだ。庭には小さな池があったので、そちらへ放してやればよかったのに、窮屈なところに閉じ込めて悪かったと思う。
十年ばかり前、商店街の祭りで金魚すくいをやったら随分捕れた。妻と二人で二十匹ぐらいすくったように思う。
金魚すくいは子供の時分に何度かやったけれど、まともにすくえた験しは一度もなかったから、自分で大いに驚いた。
昔できなかったことも、大人の頭で論理的に考えて実行すればできるものだと大いに感心したけれど、どうもその店が良心的で、ポイの紙を厚くしていたものらしい。
すくった金魚は小さな水槽で飼っていたけれど、存外死なないまま一年が過ぎた。みんな大きくなったものだから、狭い水槽では気の毒に思い、大きな水槽に移してやったら、ますます大きくなった。
一番大きなやつは尾びれがひらひらした和金で、ミマタと名付けた。
地味なグレーの琉金にジミーと名付けたら、大きくなって赤やオレンジが発色して、地味でなくなった。
白い和金は娘が「ピンクの金ちゃん」と名付けた。
あとは、「錦の金ちゃん」と名付けたのが、何だか和久井映見に似ていたのを覚えている。
その後も祭りのたびに同じ金魚屋からチビ金ヒラヒラなどの新メンバーを迎え、いよいよ百家の金魚は増えていったけれど、ある時寄生虫だか病気だかで壊滅した。
ミマタもジミーもピンクの金ちゃんもチビ金ヒラヒラも死んでしまい、妻と娘はわあわあ泣いた。
今は小さな和金が何匹か残っているが、いつすくってきたものだか、もう判然しない。
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