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しきたりと肉

 出張の帰りはいつも、駅のコンビニで弁当とビールを買って、新幹線で飲み食いすることに決めている。
 先日、そのつもりでコンビニへ行ったら、店内が随分ごった返していた。
 混雑はいつものことだが、この日は自分の荷物が多くて、どうもこれを持って店内をうろつくのは大変なように思われる。
 どうしたものかと逡巡したけれど、迷っていたって食事とビールにはありつけない。出発時刻が迫るばかりである。仕事で疲れたのに、飲まず食わずで帰るのは、いよいよつまらない。それで決死の覚悟で入ることにした。

 店へ入ったはいいが、果たして人が多すぎて、弁当売場へ辿り着けない。後一歩のところで進めない。先刻から、露出の多い服を着た女子が弁当売場の前でずっと迷っているのである。
 混雑した店内で、露出女子は時が止まったように動かない。よほど横から手を出してカルビ弁当を取ろうかと思ったけれど、カルビ弁当は甚だ微妙な位置にある。そんなところへ手をやって、変な風に思われてはつまらない。つまらないどころか、妙な誤解で捕縛されてはいよいよ大変だ。
 結局、丹田にぐっと力を入れて我慢した。
 暫く待ってようやく露出が去り、自分はカルビ弁当を手に取った。次はビールである。そう思って見ると、飲料売場までの通路が会計待ちの行列でびっしり塞がっていた。
 これは到底買えたものではない。自分はそっとカルビ弁当を棚に戻し、新幹線乗り場へ向かった。
 乗り場の売店はコンビニよりも随分高い。それはわかっているけれど、今回はこの混雑によるストレスを金で解決することにしたのである。

 新幹線が動き出してから、弁当を食べた。
 売店のカルビ弁当は果たして高かった。その割にコンビニより美味いわけでもない。幾分肉が多い気はしたけれど、倍の値段は釣り合わない。どうも面白くないが、考えたってしようがないから諦めた。
 そうしてビールを飲みながら、noteの文章をスマホで書いた。大学時代に間違って一時間早く家を出て、駅まで随分違和感があった話である。それだけではあんまり文字数が少なかったので、商店街の店について書き足しておいた。

 小さな異人の女の子が、車両の後ろから前へ駆けて行った。後ろから母親らしき異人女性が追って行った。それからほどなく、女の子が今度は前から後ろへ駆けて行った。異人母も追って行った。小一で初めて新幹線に乗った際、列車の最後尾から先頭を走って往復したのを思い出した。

 名古屋に着いて新幹線を降りると、あくびが二つ出た。

よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。