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親子丼、寿司、ギリギリ

 ある時、ビリヤード仲間の小川さんが鶏を食いに行こうと誘ってきた。
「鶏? 何で鶏なんだね?」
「美味い店があるからに決まっているじゃぁないか」
「そんなに美味いのかい?」
「美味いさ」
「じゃぁ行こう」
 当日行ってみると、他にもビリヤード仲間が都合十人ぐらい揃っている。恐らく全員、何を食っても「美味い!」と言うようなタイプである。
 全体、鶏を食うのにどうしてこんなメンバーを集めたものか判然しない。ことによると、鶏を食ったらビリヤードが上手くなるのかも知れないと思ったが、後になって、誘う相手が他になかったのだと知った。
 小川さんは「じゃぁ行こう」と言って先頭に立ち、鶏料理屋へ颯爽と入って行った。みんながゾロゾロ続いて入った。
これも後で知ったが、どうやら有名な店だったらしい。
「何が美味いんだね?」
「何だって美味いさ。名古屋コーチンなのだからね」
 そうしてみんなで親子丼を食って解散した。
 親子丼にしては随分高かったから、多分美味かったのだろうとは思うけれど、特別に美味かった覚えはない。

 別の折、試合で遠方のビリヤード店へ行った際、八木さんと一緒に飯を食うことにした。
「この辺りには何の店がありましたかね?」
「さぁて、初めて来たのでよくわからないのですよ」
「あれ、あそこに回転寿司屋がある。他に食い物屋は見当たらないし、あそこにしましょう」
 他所では見たことのない店である。昼時を過ぎたせいか、店員はおばさんが一人いるきりだった。
 美味かったかどうかはやっぱり覚えていない。全体、寿司の美味い不味いが判じられるほどの舌は持ち合わせないから、「覚えていない」より「わからない」と云った方が当たっている。
 回ってくる寿司を片っ端から平らげて大いに満足し、会計を頼んだら2,980円だった。財布の中には3,000円しかなかったから、20円しか残らず、何だか心細くなった。

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