後悔
近頃、社内の別オフィス間を行ったり来たりが多い。
先日も朝はAオフィスへ出社して、じきにトミーとBオフィスへ移動した。車で小一時間かかる距離なので、どうも時間が勿体ないが、どちらへも用事があるのだからしようがない。
運転しながらトミーが「百さん、昼、ちょっと早めにラーメン食って行きませんか?」と言った。時計を見ると11時過ぎである。
「昨日の店、リベンジしたいんですよ。この時間だったらまだ並んでないと思うんで」
前日にも移動中にラーメン屋へ寄ったのだけれど、随分な行列ができていたから断念したのである。
「行こう」
行ってみると、果たしてまだ誰も並んでいない。
自分らと入れ替わりに男性客が二人、「あぁ、美味しかった……」と独り言を云いながら出て行った。わざわざ独り言を云うぐらいなら、よほど美味いのだろうと思った。
自分たちは迷わずつけ麺をオーダーし、「お待ちください」と店主が言った。
カウンター席だけの小さな店で、「お食事中のスマホ利用、雑誌、マンガはご遠慮ください」と貼紙がしてある。
店主はタオルを被ったオヤジで、昔流行ったビッグダディに似ている。見るからに頑固そうだから、下手な食べ方をすると怒られそうだと思ったら、何だか緊張してきた。
じきに出されたのをどきどきしながら食べてみたら、何だか思っていたのと違うようである。つけ麺特有のガツンとくる感じがない。
一度水を飲んで味覚をリセットしてみたけれど、やっぱり何だか物足りない。どうやら肩透かしを食ったような按配である。
隣を見るとトミーも首を傾げていた。
店を出てからよくよく考えてみたら、行列店と云ったって別段つけ麺で流行っているのではない。つけ麺は一応やってるぐらいのものだったろう。
全体、自分が近頃つけ麺を食うのはトミーに感化された結果なので、そんなに云うほどつけ麺好きなわけでもない。普通にラーメンを食っていれば、「あぁ、美味かった……」と独り言を言えたのかも知れない。そう思ったら何だか悔しいような心持ちになった。
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。