汚穢(おえ)
強い酒を飲みたい時はズブロッカを買う。あれは安くて美味い。そうして手っ取り早く酔える。実に最高の酒だと思う。
冷凍庫に入れておいたらとろみがついて、いよいよ美味い。
桜餅のような香りがするので、何かと混ぜるよりもロックかストレートでちびちびやるのがいい。
昔、軍モノの服を好んで着た時期がある。物が良いのに安価で、見た目も一癖ある。自分のような偏屈者にこれほど適した衣服はないように思われた。
特に気に入っていたのが、異国の海軍の紺ブレザーだった。金ボタンがたくさん付いていて、大いに見栄えがしたが、やっぱり安かった。上野で三千円で買ったものである。
買った翌日に着て出かけたら、ボタンが一個失くなった。見ると随分雑な縫い付け方をしてある。これでは解けて落ちるのも無理はない。
替えのボタンなどないから、ハンズの手芸コーナーで似たのを探したら樹脂でコーティングされたのがあった。元から着いているのより、こちらの方が数段格好良い。
いっそ全部これに替えることに決めて、付いているボタンを数えたら十個もあった。一個三百三十円だったから、ブレザー本体よりも高く付いた。
ある時、ズブロッカ持参で学生時代の友人らと花見に行った。
懐かしい顔ぶれと晴天の下で飲むズブロッカは大いに美味くて、つい飲みすぎた。
それからみんなでカラオケ屋に移動すると、じきに腹の底から熱いものがこみ上げてきた。急いでトイレへ向かったが、どうやら間に合わないそうにない。
廊下にぶち撒けては店員が気の毒だから口を強く押さえていたら、吐瀉物が鼻から溢れ出た。そうして重力に導かれるまま、着ていた紺ブレザーを汚した。
自分はそれを見て、「……あぁ……」と思った。
翌日すぐにクリーニング屋へ行った。
「……これ、お願いします」
「えぇと、ブレザーね……」
カウンターにわざと丸めて置いたのを、店のおばさんが広げたら、付着した吐瀉物が乾いて白くなっている。
「これは……、何が着いたの? 牛乳?」
そう言いながら素手で払うのを、ゲロですとは今さら云えないから、「ん、まぁ、そんなところです」と誤魔化しておいた。
ブレザーは数日後にきれいになって帰ってきたが、今はもうない。いつ処分したものだかまるで覚えがないので、何だか気持ちが悪い。
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