イントネーション
怖い話というか不思議な話が好きで、移動中などはよくYouTubeで怪談を聴いている。近頃は実話怪談のあんまり生々しいのは避けて、朗読系を聴くことが多い。
先日もその流れで適当に選んだ朗読チャンネルを聴き出したら、イントネーションが名古屋弁だった。それがどうも気になって、そっちへ気が行ってしまう。
これはきっと、当人が訛に気付いていないパターンだろうと考えたら、愈々気になって、話が一向入って来ない。
その内に段々、同僚の愚痴を聞かされているような心持ちになったから、とうとう途中で聴くのをよしてしまった。
十年ばかり前、商品展示会にやって来たお客に新商品の説明をしていたら、客人が急に「あんたは広島かね?」と言った。
この時分には訛を出さないよう終始気をつけていたのだけれど、きっと何かの弾みにポロッとやったのだろう。ただ、どこでポロリとしたかはわからない。
相手は自分より五つか六つばかり年上らしく思われた。
「そうですが、どうしてわかりました?」
「やっぱりな」
いかにも満足そうな様子で、何だか癇に障る。
「え、何でわかりました?」
「ふふふ、それはね……」
そこで携帯電話が鳴り、客人は「あ、ちょっとごめん」と言ってそれに出た。
そうして電話で喋りながら歩き出して、そのまま戻らなかった。
だから、どうして見破られたのか、ついにわからないままである。
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