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百卑呂シ言行録

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日常を切り出して再構築したもの。
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2023年5月の記事一覧

メッキが剥がれる(2023/05/30)

 今日は店回りに出てのんびりやるつもりでいたら、ネルソン氏が寄ってきた。 「君、今日は店回りに行くのだろう?」 「そうだが、何だね?」 「だったらイゴールさんと一緒に行ってくれたまえ」 「君がそうすればいいだろう? いつもそうしているのだからね」 「今日はなかなか外に出られそうにないのだよ」 「だからと云って、なんで俺が一緒に出て行くのだね。イゴールさんだって外に出たければ自分で出るだろう。子供じゃぁないのだからね」 「いやぁ、そう言わずに頼むよ」 「頼まれる意味がわからな

羨ましい別れ(2023/05/29)

  月曜なので午前中に週例ミーティングがあった。このところどうにも自分の担当先ばかりが奮わないものだから、会議が苦痛でいけない。  こんなことならもっと事業計画の割当分をネルソン氏に押し返しておけばよかった。中途半端に遠慮して受けたものだから、甚だ居心地の悪いことになっている。何事も中途半端が一番悪いと、よくわかった。  今日はスカル入道の最終出社日だった。いよいよ彼も定年退職だ。  午前中に週例ミーティングに出席しただけで、後は不要な書類などをシュレッダーに突っ込み続ける

とどめを刺さない(2023/05/28)

 妻が娘を連れて友達と遊びに出掛けた。中津川の星ヶ見岩を登るんだそうだ。娘はあんまり乗り気でなかったが半ば強引に連れて行った。自分が一人でのんびり過ごせるよう気を遣ってくれたものらしい。 ※  自分は洗濯物を干し、風呂を掃除してコーヒーで一服した後、図書館へ行った。そうして内田百閒全集の2巻を返して3巻を借りてきた。3巻は『続百鬼園随筆』だった。これも文庫で持っているから飛ばし読みでいい。4巻は、書庫から出してもらう前にネットで中身を確認しておくことに決めた。  ついで

少年と爪(2023/05/27)

 娘が塾に通っているが、あんまり意味がないようだから他の塾に説明を聴きに行くことにした。  事前に電話で訊いたところでは教室が駅前で駐車場がないというし、天気も良かったから自転車で行った。  家を出てまもなく、中学生男子の集団がやはり自転車で道いっぱいに広がって向かってきた。広いところで止まってやり過ごしたら、少年たちは広がったまま、何事もなかったように通り過ぎた。随分人情のないことだが、少年とはそういうものだとも思った。  以前、野球少年たちの自転車集団とすれ違った際、同じ

子供の暴力(2023/05/26)

 家に帰ると妻子がいなかった。金曜だから、恐らくママ友親子と食事にでも行ったのだろう。腹が減ったのでとりあえず買い置きのブラックサンダーを食べようとしたら戻って来た。果たしてママ友親子と食事していたのだと云う。 ※  同じクラスのアイ子が係の仕事をサボるから注意をしたら、アイ子が後からハル子のところへ行って陰口を言っていたのだと娘が云う。仲の良いヨシ子が教えてくれたらしい。云いたいことがあるなら直接云うよう伝えるつもりなんだそうだ。  一対一でやっても「何も言ってない」

どんより(2023/05/24)

 今朝も出勤時に随分眠かった。深刻に疲れている感がある。  先日イゴールさんからトミーの商談に同席するよう云われた。担当外の得意先のこともある程度わかっておいてほしいというのがその理由だ。それはその通りだから「わかりました」と引き受けた。  今日がその商談の日だったのだけれど、今日になって畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)も同席すると知った。同席といったって、横に座って話を聞いていればいいのだろうと思って打ち合わせもせずにいたものだから知らずにいたのである。 「トミー

報告、会議、斎藤(2023/05/22)

 出勤途中に眠気が来た。いつものファミマだと畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)と出くわす恐れがあるから、もっと手前のローソンでブラックサンダーを買って食った。多少目は冴えたが、全体としてやっぱり眠かった。  出社すると開発部の漫画女史が席に来て、「百さん、◯◯の件、進めます」と言った。◯◯とは、先日営業部と開発部で行き違いになっていた件である。  教えてくれるのはありがたいが、開発親分の方針で営業・開発間のやりとりは全てメールで行って証跡を残すことになっている。そんなこ

死(2023/05/21)

 先日の雨でまた庭の草が伸びたから、昼前に妻と草取りをした。草の生命力は大したものだと感心する。  草を取りながらふと気付くと、手元にミミズがいたから驚いた。全体、手足が都合4本でない生物は苦手である。何しろ気色が悪い。  ミミズは勝手にそこに現れたくせに、何だか身をよじってのたうち回っていた。ことによると日が当たって暑いのかも知らん。  見ていると段々、気の毒に思えてきた。何しろ気色は悪いが、だからといって苦しんでいるのを放ったらかす法もないだろう。ちょうど手近に板切れが

野菜炒めと神隠し(2023/05/20)

 7時前に起床したら、既に娘が起きて何やら料理していた。 「何を作っているのだね?」 「何か、炒め物。昨日お母さんと約束した」  そう言って玉ねぎとかにんじんを切っている。  それはいいねと云って外でうさぎのケージを洗っていたら、「炒め物は加熱メニューのどれでやればいい?」と娘が訊いてきた。うちのキッチンはクッキングヒーターなので、強火弱火の他に焼き物とかいくつか加熱メニューがあるのだ。  やがて妻も起きてきて、娘の朝ごはんも出来上がった。  野菜炒めは果たして、にんじん

認識、楳図かずお、豚バラ大根(2023/05/18)

 朝、職場の駐車場でトミーと出くわした。事務所まで歩きながら「昨日の商談はあんまり首尾よくいかなかったらしいね」と振ったら、「え、イゴールさんがそう言ってました?」と返ってきた。  トミーは、確かに直接的なメリットはなかったが相手の考えがはっきりわかったからあながち失敗だったとも思っていないのだと云う。捉え方は色々だと思ったが、自分がうだうだ言うことでもないから黙っておいた。 ※  昼間に社長から呼び出された。行ってみるとカオナシと開発部の漫画女史がいた。  そうして社長

実利と面子(2023/05/17)

 出勤途中にかなりの眠気がやってきたから車を止めて30分ばかり仮眠した。睡眠時間も日中の活動もおおよそ決まっているのに、日によって眠かったり平気だったりするのは何だか面白い。 ※  得意先Z社から無理な話と面倒くさい話を振ってきたのを1週間ばかり放置していた。来月早々に回答することになっているから、社内の調整なども考慮するとそろそろ何とかしなければならない頃合いだ。  無理な話は考えるまでもなく無理だが、面倒くさい話の方は資料をよくよく確認したら面倒なだけで特にデメリット

飴、えらい人(2023/05/16)

 A社のえらい人が急に云ってきた見積で朝から随分忙しくしていたら、当のえらい人から電話が入った。用件は商品についての確認だったのだけれど、用が済んでもべらべら話している。 「百さんはどこから通ってるんだい?」 「うちはA社さんの近くですよ」 「え、そうなのか。それは知らなかったよ。でも職場まで随分遠いじゃないか」 「遠いのには慣れました。○○の辺りです」 「◯◯だったら、うちのアンダーソンの近所じゃないか」 「アンダーソンさんには祭りの時に会いましたよ」  忙しいものだか

クリアレッド、雨(2023/05/14)

 朝食の後、眼鏡のレンズ表面に長い線が入っているのに気が付いた。拭いても流しても一向に消えない。よくよく見たらどうも傷らしい。  わざわざレンズを換えるほどでもない安物で、妻からは「中学生が使う眼鏡みたいだからお止しなさい」と云われている。そう云われたら確かにそうなので、休日に家で使うぐらいにしていた。だから傷が付いても別段困ることはないが、クリアレッドのフレームが気に入っていたから面白くない。  結局、装着すれば普通に見えるし、ある角度で光が当たらなければ傷があるともわから

大福、晒し者(2023/05/12)

 出社前にコンビニ駐車場に入ろうと思ったら畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)の姿が見えた。目が合うと面倒くさいから入るのをやめてそのまま通り過ぎた。  営業部からの放逐以来、畜山との関係は随分ギスギスしている。これでは何かあった時の部署間連携もやりづらいだろう。 ※  午後から得意先A社の商談だった。 「百さん、例の件ですけどね…」と、担当が話し始めたが、経緯を語るばかりでなかなか結論を言わない。  例の件というのはこちらが仕掛けた、大きめの案件である。この勿体ぶりよう