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1日で2回停電になった話。

寒い。目覚めてまずに思ったのはそれである。なんなら寒さから目が覚めたような気もする。これが冬に布団で寝ていたのであれば、まあまあ良くあることであるだろう。特にこちらは日の当たらない山奥である。暖房器具を使わなければ、室温は12月にして5℃以下となる。私が不思議に思ったのは、今がこたつで昼寝をしていた最中であるからだ。しかしながら、基本的に1日1回はこたつで昼寝をする無職のプロとしては、こういったケースもまれにある。寝ている間にこたつの中で電源の線をひっかけて、抜けてしまうことがあるのだ。

だが今回の寒さの原因はそれではなかった。コンセントの元が抜けているのかと思い確認したが、それもつながっていた。そして、ここで私は決定的なことに気が付いてしまった。そう、部屋が暗くなっているのだ。付けていた電気が勝手に消えるという現象は、幽霊的な何かでないのであれば原因はおそらくひとつである。停電だ。

「マジかよ」
気温が下がり切った部屋で電気が付かないことを確認すると、スマホの明かりを頼りに一旦ブレーカーのもとへ向かった。しかし、ブレーカーは上がっている。どうやら本格的に停電しているようだ。問題はこの家だけが停電しているのか、付近一帯が停電しているのかということであるが、それは外に出てみるとすぐに判明した。川向こうの集落に明かりが一つもついていない。どうやら大規模な停電が発生しているようだ。月がきれいな夜であった。

まずは落ち着いて現状を把握しよう。スマホの充電は32%ある。スマホとは非常に便利なもので、現代社会では大抵の情報はスマホ一台あれば十分に調べることができる。今回も電力会社のHPにアクセスし、復旧の見込みを確認した。どうやら、21時半には復旧する見込みらしい。そう、先ほどはお昼寝と記載したが、私のようなプロの無職はそもそも午後に起床するので、お昼寝は19時以降となることが多い。お昼寝とはいったい何時までの睡眠を指すのかといった、概念的な議論は置いておくとして、現在時刻は20時半である。スマホの充電もなんとか持ちそうである。

こたつの電源はつかないが、石油ストーブがあるので1時間くらいであれば問題はないだろう。ストーブの火力を最大のメラゾーマモードにし、室温を上げておくことにした。部屋の明かりについては、電池の切れかけている懐中電灯が2個あったのでとりあえずそれに白いビニール袋をかぶせて簡易照明とした。これでとりあえず大丈夫か。だが、人間とはこういった非日常的な空間において、ひとりであると不安が増していくものである。

そこで再びスマホの登場だ。充電残量が心許ないが、復旧するまでの間であれば大丈夫であろう。そう考えて、twitterのスペース機能を開始した。停電実況というわけだ。多くの方が、停電時のアドバイスをしてくれたし、何より人と喋ることで一定の安心感を得ることができた。そうこうしているうちに、時刻はもうすぐ21時半…いや、すでに21時半を回っている?

電力会社のHPを確認すると復旧見込み時刻が22時となっている。これは嫌な予感がする。スマホの充電は残り12%である。スマホとは非常に便利なものであるが、充電がなければこんなものはただの固形物である。そうなれば文鎮と同じくらいの使用価値しかなくなってしまうだろう。なにより、固定電話も使えない今、外部との連絡手段が一切なくなるのは非常によくない。そのタイミングで強盗にでも襲われたら、通報することもできなくなってしまう。もちろん無職の家に入ってくる強盗などはいないだろうが。盗るものがないのだ。無職なので。

twitterのフォロワーさんから良いアイデアを教えていただいた。ノートPCからの給電である。USB式の充電器があればノートPCからスマホに充電することができるのだ。PCの充電残量も多くはなかったが、とりあえずスマホが文固形物に成り下がることは避けられそうである。しかしこのタイミングで次の問題が発生してしまった。石油ストーブの給油ランプが灯っている。

もちろん灯油はある、あるのだが、手元の明かりだけで給油するというのは非常に危険である。電気さえ復旧してくれれば、給油も簡単なのに。いや、そもそも電気があればこたつが使えるので、給油は翌日の昼にすればいいのだけれども。高まる不安と反比例するかのように、ストーブの炎は徐々に小さくなってきている。

「頼む、復旧してくれ!!!」
私の願いもむなしく、電気が付かないままに22時を過ぎた。HP上の復旧見込みはすでに22時半に更新されている。復旧時刻が近づくと30分ずつ延長するという仕組みなのだろう。誰にとってどういうメリットがあるのだそのシステムは。ストーブの火力設定は最大になっているが火はもうほとんどついていない。「これはメラゾーマではない、メラだ。」というのはこのことか。そんなことを考えているうちに、ストーブの炎は完全に消えてしまった。選択肢は2つ、暗がりの中給油するか、電力会社を信じて22時半を待つかである。

この記事をお読みの方の中には、さっさと寝ればいいじゃん、という考えを持っている方もいらっしゃるかもしれないが、よく考えてほしい。ただでさえ起床は午後で、かつ21時まで昼寝をしていたこの私が、たかだか22時台の時間に寝れるわけがない。感覚的には22時は昼過ぎみたいなものだ。寒さにじっと耐えることもできないため、灯油を入れることにした。

暗闇の中での給油は非常に困難を極めた。もちろん懐中電灯の明かりはあるのだが、そもそも電池が切れかかっているため明かりが非常に暗く、照らせる範囲も非常に狭い。結果として、成人男性がこぼしてはいけない量の灯油をまき散らすことになってしまったが、一定の量の給油をすることに成功した。今ここでマッチに火をつければあたり一面一気に火の海になるだろう。暖かそうではあるが、さすがにそれでは停電どころではなくなるので、とりあえず水を撒き、新聞紙を敷きまくってなんとか部屋に帰還した。

15分ほどの作業で、冷凍倉庫での軽作業2時間分くらい冷え込んでしまったが、これで何とかストーブの燃料を確保することができた。ストーブさえあればなんとかなることは多い。上にやかんを置けばお湯を沸かすことができるし、鍋を置けば調理することもできる。しかも暖かくて若干明るさもある。ああ、なんて素敵な暖房器具なんだろう。やはり一家に一台石油ストーブである。暖房やガスファンヒーターなんて目ではない。そんなことを考えているうちに、時刻は過ぎていき、23時21分電気は復旧した。

「助かったあああああああ」
歓喜である。喜びの舞でも舞いたいところであるが、先に給電だ。充電が必要なものに次々とコードを差していく。スマホ、ノートPC、ポケットWi-Fi、Nintendo-Swichこの4点である。一時はどうなることかと思ったが、なんとか乗り切れた。安心したところでお腹も空いてきた。ご飯でも作るか。

停電を乗り切った達成感に浸りつつ、作った鍋を食べている最中、なんと、突然電気が消えた。何度も言うが、付けていた電気が勝手に消えるという現象は、幽霊的な何かでないのであれば原因は停電である。

「マジかよ」
本日二度目のマジかよである。本日二度目の停電でもある。0時13分の出来事であった。まだ復旧から1時間も経っていない。スマホもPCもWi-FiもNintendo-Swichも満足に充電はできていないのだ。さらにここで、お風呂を沸かしていないという致命的なミスに気が付いた。お風呂はもちろんガスで沸かすが、給湯器自体は電気がないと動かないのである。

しかしどうだろうか。先ほどよりは状況は改善されているように思う。ストーブの燃料は十分だし、鍋もあるし、各種機器への充電も一定の量はできている。人間はパンとサーカス、つまり食料と娯楽さえあれば満足に過ごすことができるのである。HP上だと今回の停電の復旧時刻は午前5時となっている。ここからは寒さとの戦いではない。限られた充電で朝までいかに楽しく過ごすかという戦いである。

この戦いは、実際に電気が復旧する午前6時まで続いた。
とある冬の日の出来事である。

※追記
翌日も改めて2回ほど停電が発生しました。
さすがに停電が多くて不便なので大容量モバイルバッテリーを買おうと思います。



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