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今日の朝食 トマトの記憶

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214 寝不足には酸っぱいモノを。

 9時半にオフィス前にある床屋さんに行く日である。前夜、のんびりと映画を観てしまったため寝不足。天気悪いし、しかも時間がないし。コーヒーのためのお湯を沸かしながら、冷蔵庫で目が覚めそうなモノを物色する。野菜室の引き出しを開けると、酸味のありそうなトマトが目に入った。最近は、さまざまな産地の小さなトマトが手に入る。この日も佐賀産と高知産の2種類が冷蔵庫に入っていた。

 見比べて、酸味が強そうな顔つきの高知産のトマトを選び、サッと洗って4つに切って塩とオリーブオイル、ホワイトバルサミコで簡単なサラダにした。パンはトーストして、薄らとバターを塗った。さっそくトマトを食べてみると思った通りの酸味だった。酸っぱさに引っ張られるようにキューッと顔の筋肉が引き締まるように目が覚めてきた。コーヒーを一口。今度はコーヒーの酸味と苦味が、違う細胞を起こしたようだった。さらにトマトを頬張り、パンをかじると口の中で記憶が呼び起こされた。

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スペインで食べたパンコントマテ。

 2019年の6月1日、僕はバリセロナのla plataというバルで開店直後の朝10時過ぎから、パンコントマテを頬張り、ビールと白ワインを飲んでいた。イワシのフリットアンチョビも一緒に食べた。マドリードから、グラナダに行きバルセロナへ。そしてまたマドリードに戻る9日間の慌しい旅だったが、毎日おいしいものを食べていた。そして、この店で食べたパンコントマテが、もっとも印象に残るおいしいものだった。

 それ以来、パンとオリーブオイルとトマトが混ざり合った味と香りを感じると、忽然とこの店が僕の前に姿を現し、店の中へと誘う。目があった途端にオヤジさんはうなづいてワインを注いでくれるような気がする。

 少なくとも3ヶ月から半年に一回は、店の前に立っている自分に気づくのだ。そして我に帰ると、頭はしっかり覚醒しているが、約束の時間に間に合わないのである。ある意味、タイムトラベラー的でもある。

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