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黄色い地平線

目を覚ますと、列車は黄色い四角形の上を走っていた。
見晴らしが良い。ゴッホが筆を入れたような橙の地平線に、新建材の住宅が横一列に並んでおり、そこまでひたすら黄金色の稲穂が続く。風が吹くと稲がしなって、誰かが田の中をかき分けて走っているようにも見えた。
ぼくは伸びを一つすると、列車の中を見渡した。旧型の車両である。次の駅を示すLEDもない。
今日は日帰りで帰京する。この先の燕三条から新幹線に乗る予定だが、この鈍行は、燕三条に向かっているのか、寝過ごしたせいで反転し逆方向に向かっているのかわからない。
他の乗客はいない。ぼくは改めて、窓の外に目をやった。
日は傾いている。日中の激しい日差しが和らいで、オレンジの光が列車の中を染めた。本当に目を覚ましているのか疑いたくなるほど、客車に差し込む夕日は見事だった。
夏が終わろうとしている。
ぼくは黄金の光が断続して差し込む青いシートに目を落とし、再びまぶたを閉じた。
どこにも辿り着かなくて良い。
窓の外、一面の黄色に夏がある。いちばん綺麗な時が横たわっている。
しかし列車は無関心で、ただ通り過ぎてしまう。何一つ拾うことはできない。ぼくにはそれが惜しくてたまらなかった。
空が冷たくなる頃、列車は静かに止まるだろう。そうなれば、窓の景色などすぐに忘れてしまう。
目を開けると、果たして、夕日は地平線のそばで雲に隠れていた。
夏が終わろうとしている。
再びまぶたを閉じると、車掌のアナウンスが流れ、列車の速度が落ちた。

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