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「絵を見る技術 名画の構造を読み解く」秋田麻早子

名画が名画である理由を、

「どう目線を動かして見るようできているか」「どう目線を主モチーフに集めているか」「人物達の目線や手の位置がどこにあるか」「光の当たるポイントがどこに置かれているか」「色の境い目はどうなっているか」などのフレームを用いて、流れるように導いてくれる。

実際の名画を用いて、絵の見方を演習しながら読み進めていく形式だが、難しい知識やウンチクで立ち止まってしまうことがない。一歩先の美術の世界に、手を繋いで連れていってくれる。

一見地味な風景の「落穂ひろい」になぜ人々が魅力されるのか、どうしてフェルメールの使う青は効果的なのか、なぜ上村松園の描く女性の立ち姿が凛としているのか、ミュシャのかわいらしさと幾何学的正確さはどうして真似できないのか、等々…。

今までは「絵の上手さ」って、色の塗り方や正確さのことなのかと思っていたけれど、こんなにも構図の妙が、名画の名画たる所以たらしめているとは。

画家がよく、キャンパスを前に鉛筆をかざし、片目で何かを測っているポーズ、あれの意味がよくわかった。


折しも世界的コロナ禍の収束がみえないなか、世界がこんなにも一気に変わろうとしている。無駄が削ぎ落とされ、本質的な価値ドリブンなニューノーマルに世界が転換している。良く変わることはいいことだ。

その一方で、「良く」変わるとするもののなかに「沢山の偽物」も混じっているのではないか。右へ倣えの「変わろう」の大号令に、心の奥底がざらりとするような違和感も感じており。

「何百年も普遍的に美しいもの、受け継がれるもの」を見たり読んだり、本物に触れることで、「何が良いものなのか」がわかるようになりたい。時代の流れや世間の勢いに流されそうになったとき「本物をみる力」に助けられたい。

こんな不安もとい渇望から、最近本や美術に触れているのだと思う。

本書から授かった、美術をよりよく見るための透明なコンパスを持って、もっと絵をみにいこう。






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