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ヴァカンスのような産後

先日、赤子が生後3か月を迎えた。なんだか時空が歪んでいるようだ。私の時間感覚と、子の成長スピードが嚙み合わずに凸凹している。でも、それも含めて楽しい日々。この濃密な3か月間の変化を言葉にしておきたい。

退院後の生活

夫が育休を3週間とってくれたので、産院から退院した後は里帰りせずに3人と1匹(愛猫)で過ごすと決めていた。

育休中の家事はほとんど夫がやってくれ、私はその時間を療養に充てた。赤子のお世話は右往左往しながら二人で協力。授乳は私、おむつ替えや沐浴は夫が主に担当した。

加えて夫は、「妻を喜ばせるのも務めのうちだから」と私の好物を作ってくれたり、疲労が溜まって夜中に突然泣き出す私をあやしたりと、妻のケアも担っていた。

やっぱり産後は情緒不安定に陥ることがあって、“一人じゃない”という安心感はとても重要だった。身体の痛みや赤子の不安などを言葉にして吐き出せるだけでも、夫がいて良かったと思う。

「赤子に添い寝する夫」という構図も新鮮で、眩しくて、よく目を細めて眺めた。たった1か月しかない新生児期を二人そろって見守る時間は、幸せを噛み締めるヴァカンスのようで、穏やかに過ぎていった。

夫の育休明けは、ワンオペになって大丈夫かなと自分のことばかり心配していたけれど、夫のほうが辛そうだった。充実した育休期間と、性に合わない仕事とのギャップが精神的に苦しかったようだ。育休復帰が大変なのは女性だけじゃない。

猫はといえば赤子を危険分子と認識したようで、そばを通るときはなるべく迂回したルートを通っていた。腰を低くして駆けてゆく姿が笑える。泣き声には逐一耳をイカにしていたけれど、少しずつ慣れていった。いまも別にすり寄ったりはしないけれど、素知らぬ顔でそばを通ったり暴れる赤子を冷めた目で見つめたりしている。

授乳と睡眠

最初は混合栄養にして夫にミルクをあげてもらおうと考えていたけれど、私には向いていなかった。産後の頭が働かないなかで「どのくらいの量を?間隔は?母乳とのバランスは?」と考えるのが苦痛だった。何より私は母乳が出すぎるほうで、飲んでくれないと胸が破裂する!という状態だったので、自然と完全母乳になったのだった。

私が授乳担当となることで、夜間に赤子が泣いたときに起きるのも私の担当になった。もともとロングスリーパーで、眠りが深くて、寝つきも寝起きも悪い私。育児の先駆者からは「妊娠中のうちに寝ときな」「産後しばらくは眠った記憶がない」などど脅され、戦々恐々としていたのだが、これが意外と辛くない。

思えば妊娠後期にはトイレとか寝返りが打てなくてとかの理由で夜中に起きることがわりかし多かった。これが夜間授乳のためのトレーニングになったのだろうし、母体は赤子が泣いたら目が覚めるように出来ている部分もあるのだろう。

初めのうちは1時間~1時間半の睡眠を複数回とるような生活だったけれど、それでも何とかなった。自分から母乳が出ているというのも不思議な気持ちだけれど、この変化はそれ以上に不思議だ。人体ってすごい。

ただ、そんな細切れ睡眠で歯磨きが不十分だったのか、産後のカルシウム不足か、虫歯が7か所も出来てしまったのはショックだった。4か月前の検診では何ともなかったのに、一気に7か所って……。溜め息。

一方、夫は赤子がぎゃんぎゃん泣いていてもピクリともせず眠っていて、感心するほどだった。まあ夜中に夫が起きても完全母乳の場合はやってもらえることが少ないので、育休中の夫には昼の家事を頑張ってもらい、私は夜勤と割り切ることで上手く回ったと思う。

母体の調子

妊娠中に思いつく限りの悪いこと(ガルガル期や産後鬱、夫との不仲、不眠など)を想像していたので、実際産後になってみると、あれ?思ったより楽しいな、と拍子抜けした。睡眠が足りない日はイライラしやすくなったけれど、それくらい。

母乳育児と赤子とのふれあいで、がんがんにオキシトシン(幸せホルモン)が分泌されているのだろう。

精神面はそんなだったけれど、身体は人並みに辛かった。会陰の傷のせいで、産後1か月くらいは家の中もひょこひょこ歩くような状態だった。

体調が落ち着いたかな?と思うと、他の不調がやってきたりもする。産後2か月の頃に乳腺炎と蕁麻疹が併発したのはしんどかった。

乳腺炎は気づくと38.5℃の熱が出ていて、頭がかち割れるのかと思うくらいの激しい頭痛が続いた。こうなっても朦朧としながら授乳をするしかない。

蕁麻疹では身体中が世界地図のようになり、夜も眠れないほど痒かった。就寝時には保冷剤が手放せず。痒いだけなのに辛い。泣きそうになった。

産後はほとんど外に出ない引きこもり生活だったので体力も落ちていて、出産で免疫も弱っているのだろう。無理をするとすぐ体に出るから油断できないなどと呟きながら、私は今も怠けがちの生活を送っている。

赤子の成長

赤子は猛スピードで成長していく。その速度は想像を軽く超えてきた。原始反射はどんどん鳴りを潜めて、見られなくなっていくのが寂しい。ぐーんと背伸びをするとき、口までタコさんのように伸ばしていたのも今はもう見られない。その代わりに微笑んだり、あうあうあーみたいな声を発したり、新しい仕草を更新していく。

母乳を飲むのも、最初は口を大きく開けなかったり「どこどこ!?」と乳首迷子になっていたりしたけれど、すぐ上手になった。それにともなって体重もあっという間に出生時の倍になった。「母がぷくぷくにしてやるからな」と話しかけてはいたけど、こんなに順調に増えるとは。

おむつもあっという間にMサイズに。特にむっちりとした太ももを見て、夫の母は「ミシュランマンみたい」と言っていた。顔も、ガッツ石松からお地蔵さんに、そして今は大仏のように見える。どれも可愛さに欠ける例えだ。ごめんね。

出産するまでは「ちゃんと可愛いと思えるだろうか?」と心配していたけれど、これは杞憂だった。一番近くで赤子を見守ることで、ちょっとした仕草や変化がとてつもなく愛おしく感じる。

産毛だらけのおでこや耳、腕。ちっぽけで頼りなくてまっさらな存在の赤子を飽きもせず眺めながら、そんなに急いで大きくならなくていいよ、と思う。あなたの成長をもっとゆっくり味わいたいよ。

そんな思いは通じることなく、赤子はすくすく育ってゆく。

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