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“無痛”分娩にたどり着くまで

妊娠中、友人から「分娩方法は? 無痛?」と訊かれることが何度かあって、そのたび「無痛希望だけど、産むまで何があるか分からないし……ごにょごにょ」と煮え切らない回答をしていた。

今回はその煮え切らなかった部分、つまり説明が面倒くさかったところと、実際に無痛分娩を経験してみて思うところをまとめておく。

名称

そもそも“無痛”分娩は誤解が多い。無痛の意味するところは痛みが無いということだけれど、完全に痛みが無い状態を目指して分娩を行う病院は少ない。

日本で無痛分娩といったら大体は“陣痛がある程度進んだら麻酔を投与”し、“いきめるような痛みを残して麻酔を調整する”方法。痛みを緩和させるイメージで、私の通った産院もこの方針だった。

けれど“無痛”と聞いたら当然前者を連想するし、そう思っている人が多い。となると「無痛?」と訊かれても、この人の言う無痛は前者か後者か……と言葉の定義から疑う羽目になるのである。

“無痛”という名称が誤解を招いている一因でもあると思う。私は麻酔分娩と呼ぶのが適切だと思うし、そう呼ばれていってほしいので、以下では麻酔分娩と呼びます。

麻酔分娩を選択できるか

これはよく言われていることだけれど、日本で麻酔分娩を選択できる産科は少ない。

妊娠中は長距離の移動にも気を遣うのでなるべく近くの産科がいいし、費用もリーズナブルなら嬉しいし、口コミも調べて……と検討していった先に、麻酔分娩対応の産科がなかったという人がざらにいると思う。

また、麻酔分娩に対して後ろ向きな人々(なぜか麻酔なしでの痛みを崇めている人々……)が周りにいないとも限らず、反対される可能性もある。

私自身は、お金が一番引っ掛かっていた。通常の分娩費用に追加で麻酔処置費用がかかってしまうので、麻酔にかかるお金で赤子用品を買ったほうが良いのでは……これから何かと入用なんだし……自分さえ我慢すれば済むし……と迷いがあった。

麻酔処置をしても出産に至らず、別日に改めて麻酔をとなれば費用は倍かかる。けっこうな出費だ。

結局、決め手となったのは夫と義母の後押しだった。痛みを我慢するなんてナンセンスという考えの人たちだったので、私も思い切って麻酔分娩を希望することが出来た。

たかが分娩方法を決めるだけなのに、麻酔分娩となるとなんと難しいことか。

もしパートナーや近しい親族に麻酔分娩を迷っている人がいたら、「反対しないだけでなく、後押しをしてあげて」と伝えたい。

痛いものは痛い

麻酔をかけるとはいえ、痛みのレベルは結局どの程度なのか。

医師からは、無麻酔で行う“自然分娩”の痛みが10だとしたら、麻酔投与で2~3くらいの痛みを目指すと説明を受けた。一方、助産師さんからは陣痛のピークが少し緩和するくらいと言われていた。

どちらにせよ“自然分娩”よりは痛みが軽くなる場合が多いのだろうけど、感じ方は人それぞれ。痛いものは痛い。

私の場合は麻酔投与までの陣痛がこれまでの人生でダントツ1位の痛みだった。

赤ちゃんも頑張ってる、いつかは終わる痛みだと思って気を紛らわそうとしたけど無駄だった。骨(たぶん恥骨)がみしみしとこじ開けられる痛みに悶絶した。

頭やお腹が痛いとき病院にかかれば痛み止めを出してもらえるけれど、出産は「もっと強い痛みを目指そう!」というスタンスなのも精神的に辛かった。

もう無理です、と何度思ったことか。後戻りはできないのに「出産やめたい」と思うくらいに痛かった。

“無痛”分娩なんだから痛みゼロなんでしょ、楽勝じゃん、とか思われてたら全力で否定したい。

ただ、麻酔が投与されてからは助産師さんと世間話ができるレベルにまで落ち着いたので、麻酔はすごい。麻酔さまさま。私は麻酔なしではきっと堪えられなかったと思う。

イレギュラーの可能性

友人からの「無痛にするの?」という問いかけにハッキリ答えられなかったのは、麻酔分娩を希望していた/実施したけれどイレギュラーな事態が……という類の出産レポートを多く目にしていたのも一因である。

まず、麻酔分娩を希望していても逆子だったら帝王切開になるし、胎児や母体の容態によっては緊急帝王切開もあり得る。

さらに、私の通っていた産院は個人医院で常駐の麻酔科医がおらず、院長先生が不在のときに産気づいてしまうとそのまま無麻酔でGO!という対応だった。(出産直前はカレンダーとにらめっこしながら、胎児がタイミングよく産まれることを祈った。)

麻酔分娩を実施しても麻酔が効かなかった、という事態のレポートを読んで、ぞっとしたりもした。

また、麻酔分娩ができたとしても、強い副作用に悩まされるリスクもあった。医師からの事前説明では産後に激しい頭痛が起きるリスクがあって、これは頭痛薬もろくに効かないしほんとうに可哀そう、麻酔分娩しないほうが良かったレベルの痛み、と脅された。

結果的に私は無事に麻酔分娩にたどり着くことができ、副作用も高熱くらいで済んだものの、希望した分娩方法で産むって意外と難しいことなんだな……と思い知った。

麻酔分娩で良かったこと

麻酔分娩の一番のメリットは「出産時の痛みが緩和されること」だと思う。

付け加えて、私の場合は「必要以上に出産の痛みに怯えず、妊娠期を過ごせたこと」が大きなメリットだった。

多くの妊婦が出産の痛みを想像して戦々恐々とすると思う。

麻酔分娩を選択しておくことで「上手くいけば出産の痛みを緩和できるはず」とお産に希望を持って過ごせるのは、非常に心強かった。

もし麻酔分娩が上手くいかずとも、このストレスが軽減されただけで麻酔分娩を選択した価値があると感じた。

だからこそ、麻酔分娩がもっと気軽に選択できるようになってほしいと思います。

ついに次回、いわゆる出産レポ。


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