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第30回星の郷八ヶ岳 野辺山高原ウルトラマラソン(レース編②)

弱気

レースは後半戦。馬越峠に到達する前に、脚はかなり使った。
75kmあたりから80km付近が峠と記憶していたが、75kmまでもそれなりに上る。いや、そんなに上っていないのかもしれないが、体が動かなくなってからのわずかな登りでもダメージが蓄積していく。
自分の弱みは、リズムが崩れてからの立て直しがうまくできないところ。ウルトラは時間も距離も長く、何度も苦しい波が来る。立て直すチャンスがある。
ただ、今回はなかなか苦しい時間帯を抜け出せない。

いよいよ馬越峠に入ったころには、歩きを混ぜながら、止まらず進み続けることしかできなかった。予定では馬越を余裕をもって登るつもりだったのになー。自分を過信したオーバーペースを悔やみつつ、ゆっくり入ってもきっと80km地点はきつい。それなら少しでも上位で走れる経験を積んだ方がいいんだ。と無理やり言い聞かせ、何とか馬越峠を超えた。

「欲」

80kmを超えてエイドで今3位を走っていることが分かり、欲が出てきた。
淡々と走るつもりが、思いの外上位でレースを進められ、まさかの表彰台が見えている。今までの自分では到底考えもつかなかった領域だ。
欲、これは時に厄介で、判断を誤らせる。ただ、今日は違う。貪欲に取りに行こう。
ここからはひたすら逃げた。

自分のペースが序盤のようには上がらないことは分かっていたが、勝負に徹した場合、どうすれば有利に進められるかを考えていた。
ある意味で守りに入ったとも言えるので、情けないが、守り切れば勝ちだと言い聞かせた。
自分がもし4位のだったら、早く3位を視界にとらえて、90kmまでに追いつきたいと思う。残りの距離が減っていく中で、なかなか追いつかないと精神的に焦りが出てきて、追えなくなってしまうからだ。
それなら、80km-90kmでしっかり走れれば3位を守れる。
ここでの粘りが表彰台を決定づけると考え、ラストは考えずにスパート。
下りのあとの平地は4分30秒くらいにまで戻し、勝負をかけた。

最終盤 まだ折れない。


90km通過。目に見えない誰かと懸命に競っていた。
今思えば、それは4位の選手ではなく、自分自身。
ここまでこれば平地でも歩きたくなるくらいに筋疲労MAXだった。

「歩きたい」
「いや、ここの傾斜は走れる。ここで走らないと」
四頭筋は接地のたびに攣りかけて、痛みとの闘いになった。
エイドでは脚に水をかけて、気合を入れるように走り出す。

最後の5kmは主に平坦だが、風が吹き始め、ボロボロの身体には響く…
カウントダウンが始まった。
あと4km、3km、2km、1km。
あっという間だった。あれだけしんどかったのにもう忘れている。
2年前、初ウルトラで撃沈し、自分にはできない競技なのかなとか、またうまくいかないのかとか思い、それでもあきらめず積み上げてきて本当に良かった。

ゴールは最高だった。
前2人には負けたけど、そんなことより、自分がこんな大きな大会で上位で走れていることに喜びと感謝が沸いてきた。
初野辺山は大ダメージを負ったけど、得たものがはるかに大きかった。

おまけ

14:00過ぎに表彰式を終え、15:00前には会場を後にした。
帰り、7時間の運転。全く眠くならなかったのが不思議だ。
胃腸も全く問題ない。
アイシングしながら帰ったことで多少はダメージを抑えられた。
21:45頃、京都へ帰ってきた。
シャワーを浴びて布団に入った瞬間、「あーこの疲労感最高」と思えた。
きっと疲労が取れたらまたすぐに走り出すんだろう。
そういう生き物になった。
今回ようやくウルトラランナーになれたのではないか、なぜかそう思った。

翌日の仕事はしんどかったけれど、充実感のほうが大きかった。
階段を手すりを使って降りていると、皆笑ってくれた。
あー、この痛みの幸せだ。



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