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あなたの手。

あなたの手が好きだった。

整えられた爪、細長い指、
角張りすぎない、綺麗な、しなやかな手だった。

傷がつきませんように、
怪我をしませんように
ささくれも出来ないといいなぁって、

おそらく、貴方より私の方が願っていたとおもう。

それほど綺麗な、私好みな指で、
何をしても似合っていた。

男性物の時計はもちろん、
おやつ感覚と言って吸っていたタバコ、
私の付けていたシンプルな指輪だって、
上手すぎないギターや、始めたてのピアノだって、
一緒に行ったお寿司屋さんで頼む時に使っていた
安物のボールペンだって。

なんでも。

その手が触れる色々なものを、
美しい風景の1部とした。

私より大きな手、
私よりすこしだけ早く始めたギターのせいで、
タコができて固くなった左手の指先、
硬すぎない皮膚、
その手は冷たくても安心感があって、
私はいつもその手を求めていた。

もう私の手とは、
きっともう重なり合うことの無いあなたの手。

更新されるように、またいつか、
誰かの手と重なるあなたの手。

想像して、少し寂しくなる。

でも、それと同時に頭をよぎる。

私とあなたが一緒にいた時のことは思い出せても、
重ねていた時の手の温度はもう思い出せない、
そんなの思い出遠くなる一方で、
そんなことを考えなくなる日は来るし、
その重なり合う手の内にずっと存在していた、
私たちの何か暖かいものは、
いつの間にか無くなっていたのかもしれない。

そんなことを打ち消すように私たちは笑っていたね。
最後に会ったあの時は既に、
あなたの手は少し遠くで、きれいにあった。

きっと暖めるまでもなく、
知らない間にどこかへ落ちていたのかもしれないね。

私はこれからしばらく、綺麗な手を見る度に
貴方が脳裏によぎるのだろうか。

それが暖かい思い出になるように、
私は自分の手も愛しく思えるように、
きれいに、大切にしていこう。

また、暖かい何かを、いつか、

私の愛す誰かの手と大事にすることができるように。


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